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黒と翠⑻

執筆:八束さん

 

 

 

 危ないものにはわざわざ近寄ったりしない主義だ。でも目に入ってしまうものはどうしようもない。というより、玄咲のそういう主義を知った上で、誰かがわざと目に入れさせようとしているんじゃないかと思えてくる。


 たまたま通りかかった窓の中で、しなやかな肢体が仰け反るのを見た。顔が見えなくても、靡く亜麻色の髪からわかった。ヤヨイさんだ。ちらりと見えた人影はおそらく理事長だろう。露わになった乳房。それに一瞬違和感を感じたのは、先端の突起が見えなかったからだ。よく見ると、乳房に何か巻きついている。あれはメジャーか。はらり、とメジャーが重力に負けて落ちて、真っ赤な乳首が見えた瞬間、彼女の視線を感じたような気がして、慌ててその場を立ち去った。
 その光景が脳裏から離れない。ふとすると、揺れる髪が翠子さんのものにすり替わってしまう。翠子さんはおっぱいが大きいから、同じことをすればもっと仰け反る格好になるだろう。細いメジャーでは翠子さんの乳首は隠しきれないかもしれない。
 そんなとき、翠子さんが裁縫道具を持って帰ってきた。広げられた型紙を見るとワンピースのようだが、どうやら家庭科の授業内で課題が仕上がらず、持ち帰ることになったらしい。しかし布の裁断すらできていないはどういうことか。事情を聞くと翠子さんは、『採寸で他人に身体をさわられるのがひどく不快』だったらしい。
 そう言ってはいるが、おそらくちょっとさわられただけで『れいの』力を発揮してクラスメイトを遠ざけてしまったんじゃないか。それかそもそも、ペアを組んでくれるような友達はいなかったか。
「いいのよ別に、適当なサイズで作るし」
 そして言葉どおり適当な手つきで、ざく、と、布にハサミを入れている。見ていられない。後ろから近づき、そっと手を添える。
「でもこの課題って、自分で作った服を自分で着なきゃいけないんじゃないの?」
「大丈夫、たぶん着れるわ。大きめに作っておけば問題ないでしょ」
「ダメよ、せっかく上手く作れても、サイズが合っていなけりゃ見栄えが悪くて減点される」
「いいのよ別に家庭科くらい。アンタには関係ないでしょ、放っておいてよ」
 広げられた裁縫箱に手を伸ばし、メジャーを取り出す。
「ちょ、玄……
「私が測ってあげる」
 翠子さんの両肩を掴んでこちらを向かせる。最近、この程度の接触では、翠子さんは過剰に反応しなくなった。
 ジャケットを脱がせる。ブラウスのボタンに手にかけたところで、ようやく何か、気づいたらしい。
「ちょっ、何やってんのよ!」
「何って、脱がないと採寸できないでしょう。翠子さんこそ何言ってるの」
「わ、わかってるわよそんなこと。何でアンタに脱がせられなきゃならないの、ってことよ」
 自分で自分の退路を断っている。
 何も感じてません、という風に乱暴にボタンを外しているが、指先は微かに震えている。
「さあ、早く測りなさいよ」
 パステルピンクのシンプルなデザインのブラジャーだ。かわいいブラジャーだが、翠子さんには合っていない。それより、今まで見たことのないデザインということに、軽く嫉妬している。ブラジャーに嫉妬するなんてのも変な話だが、自分の知らないものを翠子さんが纏っているということに、こんな感情を覚えるなんて思ってもみなかった。
「それじゃまだ測れないわよ。それ取ってくれないと」
「アンタ馬鹿じゃないの。そんなことしなくたって測れるでしょう」
「ちゃんと合ったブラジャーならね。翠子さんの胸、変な形に歪められちゃってるもの。その上さらにキツいワンピースで押さえつけたら可哀想よ」
 後ろに手を回してホックを外してやる。抵抗するかと思ったけれど翠子さんは意外と素直に受け入れた。どうせ測るんだから、と、一緒にスカートも落としてやる。そして慎重にやっているように見せ、あえてゆっくりとバストにメジャーを巻きつける。しゅるしゅる、と、静かな部屋にメジャーの音だけが響く。
「何ぐずぐずやってんのよ」
「裁縫の八割は採寸で決まるのよ。慎重にしないと。翠子さんが動くから、なかなかサイズが定まらないのよ。ほら、またちょっと大きくなった」
「ひっ……ん」
 大きくなったのは翠子さんの乳首だ。上から下に、下から上にメジャーをずらすたびにぷるん、と揺れて、その形と色を変えていく。
「ああ、そんなに胸反らせちゃダメよ。ちゃんと姿勢をよくして立っていて。腕はまっすぐ下に下ろして」
「や、あ……く、玄咲っ」
 そして物足りないくらいのタイミングでメジャーを外す。翠子さんは感じやすいから、油断するとすぐ快楽に尻尾を振る。そんな風に徐々に仕込んできた。
 頬を赤く染め、肩で息をしながら、それでも言われたとおりちゃんと腕は下ろしている。そんな翠子さんがたまらなく可愛い。
 ウエスト、ヒップと、下に向かって測っていく。膝をつき、翠子さんの股に顔を埋めるほどに近寄り、メジャーを巻きつける。翠子さんのにおいが、濃厚に漂ってくる。すん、と鼻を鳴らすと、翠子さんの太腿がびくんと震えた。
「翠子さん、そのまま脚、ひらいて」
 必要以上に大きく脚をひらかせ、太腿の付け根にメジャーを巻きつける。ズボンを作るんじゃないんだから本来測る必要のないところだが、翠子さんの頭はもう完全に回っていない。メジャーを引き抜くとき、偶然を装って局部にふれると、翠子さんは甲高い声を上げた。そこはもう、言い逃れできないくらいはっきりと潤っている。
「翠子さん」
 人差し指をぐいっ、と押し当ててやる。あきらかな意図を持った動きなのに、翠子さんは抵抗するどころか、悦んで腰を押し当ててきた。以前は考えられなかったことだ。
「ここ、どうしてこんなに濡れてるの」
「だって! それはアンタが変なところいじるからっ」
「変なところ? 私はただ、胸と、腰と、お尻を測っていただけよ。それとも翠子さん、変なところ、も、測ってほしいの?」
 股にメジャーをくぐらせる。
「ちょっ、玄咲、何やっ……んんっ」
「しーっ、翠子さん、声、大きいわよ。翠子さんのお望み通りちゃんと測ってあげるから。これ咥えてて」
 メジャーの端を翠子さんに咥えさせる。胸の谷間を、お臍の上を、淡い茂みを、メジャーが縦断する。そして敏感な部分をくぐらせたメジャーを、後ろから一気に引っ張る。
「んうっ、んんんーっ!」
 軽くお尻に触れながら、メジャーを引っ張ったり戻したりする。ぐちゅぐちゅ、と、肉が擦れる音がする。白く泡立った液体が、翠子さんの太腿を流れ落ちる。涙を零しながら、それでも翠子さんはメジャーを咥えて放そうとしない。逆に自ら引っ張るように顎を持ち上げている。けれどどんなに頑張ったところで、こんな細い紐の刺激じゃイくには到底及ばないだろう。それともあの人なら……理事長の手に堕ちれば、どんなことをされても簡単にイけてしまうのだろうか。翠子さんの茂みを、78の目盛りが行ったり来たりするのを冷静に見下ろす。
「あんっ、あっ、ああああーっ!」
 目盛りの数字を刻印するように、ぐりぐりと敏感な突起に押し当てる。翠子さんはとうとう絶頂し、いやらしい液体を激しくまき散らかした。どうせ掃除するのは自分だから、限界まで吹き出してもらってかまわない。むしろその様が見たい。メジャーが翠子さんの液体で濡れていく。
「翠子さん」
 ぐったりした翠子さんの顔に、濡れたメジャーを近づけてやる。
「こんなに濡れちゃったわ」
 ぽたり、と、メジャーを伝って雫が翠子さんの胸に落ちる。翠子さんは耐えきれない、という風に顔を逸らす。それでもかまわない。玄咲のやることは変わらない。濡れたメジャーをピンと張って、翠子さんの身体に擦りつけていく。脚から腰。そして胸へ。上へ下へ。持ち上げられては、重力に負けてぷるん、と揺らされる胸。
「な、にやって……!」
「自分で濡らしたものは自分できれいにしないとね」
「だ、ったらただ拭けばいい……やぁっ」
 赤く腫れ上がった乳首に擦りつけていると、可愛がっているようにも、いじめているようにも思えてくる。結局、どっちもか。翠子さんのことは可愛がりたいし、いじめたい。
「やめてっ、玄咲っ、もういいでしょっ、もう、終わっ……
「だって翠子さんの乳首、こうするとすごく悦んでるんだもの。私が直接さわってあげるより。初めて見たわ、こんなに真っ赤になってるの」
「やっ、やめてっ、やんっ、あっ、あああっ」
 胸を反らせて、翠子さんはまたイった。
 彼女もこんな風にイったのだろうか。
 少しだけ悩んだが、翠子さんの体液が残ったままのメジャーをそのままケースに巻き取った。
 しゅるしゅるしゅる。
 これで外からは何もわからない。
 けれど自分だけが知っている。
 きれいに収められているように見えて、中では醜い欲望がとぐろを巻いていることを。