執筆:七賀
珍しくもないけど、翠子さんが怒りながら部屋に戻ってきた。
「もう紺野先生の授業は絶対出ないわ!」
ベッドにうつ伏せで倒れ、枕に顔を沈めてしまう。何が始まったんだろうと思ったが、時間をかけて聞き出すとテーブルマナーの授業中、人前で辱めを受けた、という内容だった。恐らく手本として皆の前でやらされて、失敗して恥をかいたのだろう。
「元気出して翠子さん。今は何の為にやってるんだろうって思うけど、大人になったら役に立つ時がくるかもしれないじゃない。だから頑張りましょ」
何故か彼女を前にすると優等生のような台詞がすらすら出てくる。心にも思っていないことを口にすること、これが楽しい。見抜かれてもいいし、見抜かれなくてもいい……不思議な余裕と愉悦に浸っている。
「アンタは達観し過ぎなのよ、玄咲。私はいやよ本当にいや……もう家に帰りたい」
いやいや病から一転、今度は帰りたい病が出てしまった。
彼女が大好きなアイドル集や豆大福を差し出してみるけど、頑として顔を上げない。期待を裏切らない駄々っ子ぷりに笑いそうになる。
翠子さんは一日観察していても飽きない。なのに、この学園にいる子は彼女のことを全然分かってない。さすがに腫れ物とはいかないが、近付かない方がいい……という思考が暗に伝わってくる。
もっと彼女の魅力を伝えたい気持ちと、このまま独り占めにしていたいと願う気持ちが絡まり合う。ぐちゃぐちゃに合体して、膨れ上がって、最終的にどうなるんだろう。
翠子さんの邪魔にならないようベッドの端に倒れる。彩波先生の言う通り最近寝不足だったせいか、うたた寝してしまった。
「う~ん……」
玄咲が力いっぱい背伸びをしても、翠子さんはぴくりともしない。まさかと思って近付くと、微かに寝息が聞こえた。彼女も不貞寝してしまったようだ。
布団を掛けてるわけじゃないから身体のラインがよく分かる。今日は珍しくタイツではなく、ただの白い靴下を履いている。しなやかな背中、膨らんだお尻、太腿……。
こうも自由に眺められる機会は貴重だ。
翠子さんに睡眠薬は必要ないかもしれない。
長い髪を軽く払うと、真っ白なうなじが見えた。思わず唇を寄せるけど、匂いを嗅ぐだけで留めた。それから出来心で、スカートの端を摘む。少しずつ持ち上げ、背中に掛かるまで捲った。そして現れたのは、やっぱり可愛らしい桃色の下着だ。
どこまでやったら起きるかしら。
ゲームのような感覚で、パンツをちょっと引き下げる。両脇に小さなリボンがついているが、ただの飾りで引っ張っても解けない。
うつ伏せ状態でパンツをゆっくり下ろすのは至難の業だ。結果的に全てを下ろすことはできず、丸みの下で断念した。それでも充分お尻を眺められるし、これはこれで悪くない。
出来心から悪戯心に移行し、割れ目に指を滑らせた。人差し指で上からなぞり、辿り着いたのは小さな窪み。第一関節も触れてる部分も見えないのにぞくぞくする。ここに触れたひとが、彼女の母親以外にいるのだろうか。いや、母親だってそうは触れてないかもしれない。
爪の先をぐっと潜り込ませようとしたその時、「ひゃっ!」と甲高い声を上げて翠子さんが飛び起きた。
「な、何っ?」
身体を起こしたことでスカートが下がった為、見た目は何も分からない。ただ下着がずり落ちているはずだけど……翠子さんは寝起きで気付いていないようだった。
「おはよう。翠子さん、すごい格好で寝てたわよ。今直してあげようと思ったんだけど」
「い、いい! 大丈夫だから触らないで!」
彼女はベッドから降りると、スカートの位置を直した。多分、下着も必死に引き上げてる。
「玄咲、本当に何もしてないわよね」
「ええ、もちろん。私が嘘をつくと思う?」
ついてるけど。翠子さんの天然を信じ、真正面から見返した。純粋な彼女は「それならいいけど」、と洗面所の方へ行ってしまった。
あのまま起きなかったらもっと楽しいことになってたかも。なんて考えながら、またベッドの上に倒れた。
遠くから水の音が聞こえる。次に瞼を開けたら手を洗いに行こう。