執筆:八束さん
まだ身体の奥がぐずぐずと疼いている。
彩波先生に慰めてもらったけれど、あの先生は「よしよし」と頭を優しく撫でるみたいな、そういうセックスしかしてくれない。いつも激しくなってしまうのは柚実(ゆずみ)ばかりだ。
青……緑……オレンジ……紫……駄目、あいつは駄目、あいつも駄目……
柚実には、ひとが抱えている欲情の色が見える。
清楚そうなあの子も、真面目そうなあの子も、ひとは見かけによらない。そういう煮えたぎった欲情を抱えている奴に近づいて一押しすれば、たいてい簡単に堕ちる。
寮に戻ろうとしたところで、ひときわどろどろした色をしているひとがいることに思い至った。
ずっと前から気になっていた。事務員のヤヨイさん。
「ヤヨイさーん、ボールペン一本ちょーだい」
制服はもちろん文房具も、消しゴム一個に至るまで学校指定のものを買わないといけないから面倒くさい。まぁ市販されているものよりかなり安いから許せるけれど。
「ボールペンね。何色がいい? 黒? 赤? 三色入りもあるけれど……」
「……色」
「え? 何?」
「ヤヨイさんのいやらしいアソコと同じ色」
「な、に言っ……」
ボールペンを渡してくれようとしていた手を掴み、壁に押しつける。ストックされていたボールペンがバラバラと床に落ちる。
六畳ほどの事務室には、ヤヨイさんひとりしかいない。ヤヨイさんが来るまでの事務員さんはお爺さんだった。ヤヨイさんが来てから、花が置かれたり、絵が飾られたり。狭い空間だけど上手くアレンジされていて、ずいぶんと華やかになった。それに部屋全体に、いい香りが漂っている。芳香剤? ううん、ヤヨイさんの香り。いやらしい香り。
スカートの中に手を潜り込ませる。まるで痴漢してるみたい。
「やめっ……柚実さん、何するのっ、やめて……!」
「あは、嬉しい、ヤヨイさん、名前覚えててくれたんだ。……って、何これ」
欲深いひとだとは思っていたけど、まさかここまでとは思わなかった。
「ヤヨイさん、何これ、何でここ、穴あいてんの? 超やらしーんだけど」
「やめて……っ!」
ヤヨイさんが履いていたパンツ。大事な部分を覆うところに穴があいている。いわゆるオープンショーツ、ってやつだ。脱がずにセックスができる、完全にヤリ目的のパンツ。
「しかもヤヨイさん、濡れてない? 仕事中に一体何考えてたの。てか、まさか学校で誰かとヤるつもりだったの?」
「やめて……」
「って、知ってるよ。理事長でしょ? 全校集会のときにヤヨイさん、すっごい熱っぽい目で理事長のこと見てた。それから何か怪しいと思ってたんだ。あぁ安心して、他の子は気づいてないよ。でもこれからのヤヨイさんの態度次第では、どうなるかわかんないけど? ふふ、こんなのなかなかナマで見られる機会ないから、記念に撮っちゃおーっと」
携帯を取り出して、すかさずシャッターを切る。
よく見ると、ヤヨイさんのアソコはつるつるだ。だから扇情的な下着がさらにいやらしく映えている。
……すっかり調教済み、ってことか。
「でも理事長は毎日学校に来るわけじゃないでしょ? ひとりのときはどうしてるの? 自分で慰めてるの? ねぇ、ひとりでやるくらいなら、ユズと一緒に遊ばない? 大丈夫、誰にも言わないから。ユズもね、一日でもやんないと疼いちゃってどうしようもなくなるの。だから、ね? 慰めっこしよ?」
ヤヨイさんのアソコに自分のものを押しつける。あぁ気持ちいい。
ヤヨイさんと理事長がどうしてそういう仲なのかはわかんないし、どうでもいい。でも、この身体を好きにしている理事長がちょっと羨ましい。
「嫌……駄目……っ、こんなこと、駄目よ……っ」
「素直になろうよヤヨイさん。もう我慢できないはずだよね? 我慢してたっていいことなんて何もないよ。気持ちよくなろうよ」
縁飾りのレースがぐっしょりと濡れたパンツに手をかけたそのとき、
「嫌ぁっ!」
全力で振り払われ、頬に痛みが走った。
「痛っ!」
「ご、ごめんなさいっ……」
「ったぁ……」
「ごめんなさい……でも、柚実さん、やっぱりこんなことは駄目よ。……あなたの言うとおり、私は理事長が好き。だから理事長としかこういうことはしたくないの。あなただって、ちゃんと本当に好きなひとと……」
「……く」
「柚実さ……」
「ムカつく! ムカつくムカつくムカつく! 何なのマジで。そんなえっろいパンツ履いてるくせに説教すんの? はぁ? 説得力ないんですけど。ありえない。ユズを拒否るとかありえない! いくら清純ぶったってユズには全部見えてんだからね。本当は、気持ちいいことしてくれるなら誰だっていいくせに。理事長が好きなんじゃない、気持ちいいことしてくれるから理事長が好きなだけのくせに!」
何なの。
何なの何なの何なの!
気持ちいいことにはすぐに従いなさいよ。そう……
私みたいに。
不覚。
こんな風に失敗したのはそう……『あのとき』以来だ。
事務室を飛び出す。とにかくこの屈辱を晴らすには、新たなターゲットを見つけるしかない。
ふと窓を見ると、頬には猫に引っかかれたみたいな傷ができていた。