705と841⑷

執筆:八束さん

 

 

 

 待ちきれないとばかりに駆け寄ってくるヤヨイさん。日に日にそれは、切羽詰まったものになっていっている。いい兆候だ。思慕を通り越して、完全に依存させることができた。もう彼女に結わえ付けた操り人形の糸は、どうやっても解くことができないだろう。
「ナオコさん……ナオコさん、会いたかった……
「そうね、私も会いたかったわ。私がいない間、言いつけは守れていた?」
「ええ」
「この部屋でいっぱいオナニーしてくれた?」
「ええ、しました。いっぱい。ナオコさんのことを思って……
「嘘」
 敢えてキツい口調で突き放す。
「ナオコさん」
「嘘はいけないわよ、ヤヨイさん」
「嘘だなんて」
「真っ直ぐで穢れのないところがあなたのいいところだったのに、がっかりだわ。簡単にバレるような嘘をつくなんて」
 そう言って彼女の前に鍵を置いてやると、サッと表情が青ざめた。
 前に、外に連れ出してシたことがあった。生徒達も誰も訪れない、森の中。そこでこっそり、鍵を奪ってやったのだ。案の定、狼狽えてあたりを探し回る彼女が監視カメラに映っていた。素直に報告するなら許してあげようと思ったのに、まさかつまらない嘘をつかれるとは。
「ナオコさん、それ、どこで……
「森の中に落ちていたのよ。そう、前にお散歩に連れていってあげたあの木の下に。あれから私、ひとりで何回か訪れたのよ。あのあたりにあなたのにおいが立ちこめているから。ねえ、初めて見られながら、外でお漏らしした気分はどうだった?」
「やめて……
「私の言うことを素直に聞いてくれるあなたが好きだったの。私がやって、って言ったら、外でちゃんとお漏らしして……犬がマーキングするみたいに脚を上げて。とても可愛かったのに」
「やめてください!」
「やめてほしいのは私の方よ。あなたがそんな悪い子になっちゃうなんて。悪い子は躾け直さなきゃいけないわ」
「ごめんなさい……
「じゃあまず、服を脱いで」
 震えながらスカートを脱ぐ。スカートを脱いだきりもじもじしているので、
「何やってるの、全部よ」
 容赦なく命じる。
 ああ、本当に綺麗。一糸まとわぬ姿になった彼女は本当に。
 胸を隠すように髪を前に垂らしているのが気に入らなかったので、まとめて後ろに流してやる。形のいい胸と、色づいた乳首が露わになる。
「じゃあまた、マーキングしに行きましょうか」
「えっ」
 彼女の手を引いて、理事長室の扉をあける。
「嘘っ、このまま……
「大丈夫よ、今は授業中だから。誰もいないわ」
「でもっ……でも……
「ほら、早くしないと授業が終わっちゃうわよ。さっさと従った方が身のためだと思うわよ。まだわからない? 私は一度やると決めたことは必ず最後までやるタチなの。授業が終わって生徒達が大勢いる中、真っ裸で歩きたいっていうなら止めはしないけれど」
 そう言うと俯いたまま、ようやく歩みを進めた。
 ぞくぞくする。何て素敵な『お散歩』だろう。
 理事長室を出てすぐのところの階段を上がる。屋上に通じる階段だが、屋上は閉鎖されているので、ここを通るひとはいない。授業をサボろうとしている不届きな生徒が忍んでいる可能性はないとは言えないけれど。
 ぺた、ぺた、ぺた、と素足の彼女が階段を上る音。廊下は冷たいだろう。可哀想だけれど、これは『お仕置き』だからしようがない。
 一番上の踊り場まで上らせたあと、階段の下の方に向かって立たせる。屋上につながるドア。その磨りガラスの窓から差し込む光が、彼女の乳房をより白く光らせている。
「ナオコ、さん……
「そこでやるのよ、ひとりで」
「そ、んな……
「イったら部屋に戻らせてあげるわ。その代わり、イくまでは許さないわよ。ほら、早くしないと。あと十分で授業が終わるわ」
「ふう……うっ……ああっ」
「ほら、もっと脚をひらいて。ちゃんとヒクついているところを見せてくれなきゃ。イったかどうかわからないでしょ? ちょっと甘やかすと、あなたはすぐ誤魔化すひとみたいだから」
「ナオコさん……ナオコさんっ……
 陰部を見せつけて、必死にオナニーしている。あともう少しでイくか、と思ったところでふと、手の動きが止まった。
「どうしたの」
「許してください……もう……
「ほら、早く続きをして」
「駄目……なんです、漏れ……そう、で……
「漏れそう?」
 思わずクッと喉の奥で笑ってしまった。
「丁度いいじゃない。外でお漏らしするのはもう慣れたでしょ? ここもあなたのにおいでいっぱいにして頂戴」
「でもっ……でも……
 内腿が小刻みに震えている。限界が近そうだ。もう少し待てば彼女自ら一線を越えてくれそうだったが、あいにく時間が足りない。滅多にひとが訪れない場所とは言え、万が一の事態になったらナオコも困る。……まぁそうなったらなったで、揉み消してやるまでだが。
 階段を上がり、ヤヨイさんの後ろに回る。
「ほら、あなたは私の言いつけは守れる、いい子でしょ?」
 胸を優しく揉み、キスをする。そのまま手を腹まで滑らせ、油断したところでぐっと力を入れて下腹部を押す。
「ああっ、ナオコさんっ、いやっ、あっ、あああーっ!」
 ぷしゃっ、とお小水がまき散らされる。階段を、あっという間に一番の下の段まで伝い落ちてしまった。
「すごい、ヤヨイさん、ぜーんぶあなたでよごれちゃったわよ」
「いや……やぁ……
 ぐずぐずと啜り泣いている彼女を抱きしめ、コートを掛けてやる。
「よくやったわ、あなたはやっぱり、いい子ね。大好きよ」
 その言葉に心底ほっとしたように、縋りついてくる。
 こんな言葉なんかで。
「ナオコさん……ナオコさんお願い……捨てないで」
「捨てるわけないじゃない」
 あなたが私のオモチャとして、楽しませてくれる限り。
「さぁ、行きましょう。こんな可愛いあなたの姿を、他の誰にも見せたくないもの」
「でも……ここ、よごしてしまって……
「大丈夫。犬がイタズラしたってことにしておきましょう」
「犬……
「可愛い雌犬ちゃんが」
 戸惑っている彼女に、考える余裕を与えないようにキスをしながら、細い首筋を撫でる。彼女だったらきっと喜んでつけてくれるだろう。自由を奪われるものだとしても。ナオコが与えた首輪なら。
 その日のことを想像して、思わず笑みが漏れた。