執筆:八束さん
部屋に戻ると、タンスの下に何か落ちているものを見つけた。
何だろうと拾い上げると、それはパンツだった。水玉模様の。
玄咲のものではない……ということは、翠子さんのもの、ということだ。
端と端を摘んで広げようとしたまさにそのとき、
「きゃあっ!」
それまでベッドに寝っ転がっていた翠子さんが、血相を変えてやってきた。
「何ひとのパンツ勝手にさわってんのよ変態っ!」
また人聞きの悪い……というか、何でもひとのせいにするのはもう翠子さんのお家芸みたいなものだ。
「そこに落ちてたのよ。大体、パンツくらいどうってことないじゃないの。女同士なんだし」
「女同士でも、あんたは違うわ」
「私が? 何が」
「邪心が滲み出てるもの。騙されないわよ、いくら女同士だからって」
翠子さんは必死にパンツをタンスに仕舞おうとしているが、引き出しがなかなか閉まらず、悪戦苦闘している。モノが多すぎるのだ。見かねて一度、引き出しを引いてやると、またこの世の終わりみたいな声を上げた。
「何するのっ!」
「何って、こういうときは一度全部引き出した方が仕舞いやすいでしょう。って……」
「きゃーっ、じろじろ見ないでよ変態っ!」
引き出しの上に、バッと覆いかぶさっているが、無駄な努力だ。
「翠子さん、随分可愛らしい下着が多いのね、意外」
「水玉とかパステルピンクの花柄とか……可愛らしい、というかむしろ……」
「意外って何よ、子どもっぽいって思ったんでしょう!」
「ううん、むしろこういうのが女子として正しいんだと思う。私のは黒とかグレーとかばっかりだから。それに翠子さんにとても似合ってる。ねえ、一番お気に入りのってどれなの?」
「何であんたなんかに教えなきゃいけないのよ! っていうか早くそこをおどきなさ……」
「あ、ブラジャーとちゃんと柄、揃ってるんだ。すごい、女子力高い。ねえ、さっきのパンツとブラジャー、つけてみて?」
「冗談っ……」
「つけてくれないんだったら引き出しの中、ひっくり返しちゃおうかな」
引き出しの奥に手を潜り込ませる真似をすると、
「わかったわよ!」
水玉のパンツとブラジャーを手に翠子さんが、すっくと立ち上がった。
「いいこと、私がいいと言うまで絶対覗いちゃ駄目だからね!」
そしてベッドに上がると、レールカーテンをシャッと引いてしまった。もぞもぞと動く気配。その方が、直接見るより欲情……翠子さん的に言うなら邪心……を掻き立てることに、翠子さんは気づいていない。
五分経った。着替えている気配は感じられないのに、翠子さんはなかなかベッドから出てこない。
「翠子さん?」
返事はない。
「翠子さん? もう終わったー?」
「あっ、う……その……」
さっきまでとは打って変わって弱々しい声音だ。待っていてもらちがあかないと思い、とっとと約束は反故にする。
「なぁんだ、やっぱりもう着替え終わってたんじゃない。すごい、やっぱりとても可愛い」
「もっ、もういいでしょっ、もう……」
何だか様子が可笑しい。単に恥ずかしがってる、というのとは違うような……
「翠子さん、肩紐がよれ……」
「さわらないでっ、こっちに来なっ……!」
玄咲が手を伸ばした瞬間、ぺろん、と、サイドベルトが落ちた。ホックが掛かっていなかったようだ。
「あら、つけ直してあげる」
「いいって、もう見て満足したでしょうっ?」
「ほら、後ろ向いて……って、あ……」
サイドベルトを合わせようとして、気づく。長さが足りない。
「翠子さん、胸、おっきくなっちゃった?」
「だから嫌だったのよ! どうせあんたも馬鹿にしてるんでしょう。サイズに合わないブラなんかして、って。昔、からかわれたのよ。ブラジャーをつけ始めた頃。皆がしてるような子ども用のブラジャーはサイズが合わなくて。だから大人用のブラジャーをつけてたら、おばさんみたいって……」
「馬鹿ね。翠子さんのことをからかった子たち、今はきっと、翠子さんの胸を見たら悔しがると思うわ」
そっと押し倒し、ブラジャーの上から手を添える。形を確かめるように。愛おしむように。優しく揺さぶると、翠子さんが吐息を漏らした。
「翠子さん、可愛い」
「馬鹿言ってんじゃないわよ」
可愛い。おっきい胸も。それを必死に隠そうとしているところも。憎まれ口を叩きながらも、最終的には受け入れてくれているところも。
そう、翠子さんが本気で拒絶したら、八つ裂きにされていてもおかしくないのだ。
気付き始めてしまった。玄咲とこういうことをするようになってから、翠子さんの力は少し、弱くなっている。
自分の力もそうなるのだろうか。もしそうなるのだとしたら、脱走計画なんて企てる必要なんてなく、この檻から抜け出すことができるじゃないか。力を失った者は、ここにいる資格はない。
胸のてっぺんに、人差し指をちょん、と当てる。ブラジャー越しだから、ほとんど何も感じないはずだ。けれど翠子さんさんはせつない声を上げて、背中を反らせた。ずっとそんなことを繰り返していると、焦れたように睨みつけてくる。
「い、つまでそんなことやって……」
「直接舐めてほしい? だったら自分でブラジャーはずしてみせて」
「なっ……」
初めから素直に従うわけなんてないことはわかっていた。ブラジャーの上から胸を揉みしだく。
「翠子さん、乳首、勃っちゃったね」
「勃っ……てなんか……見てもいないくせに、わかるわけないでしょっ」
「じゃあ賭ける? 乳首勃ってたら、舐めてあげる」
「勃ってなかったらどうするのよ」
何だかんだと乗り気だ。
「んー、考えてなかったな。だって私がこんなに愛してあげてるんだから、勃ってないはずがない。勃ってなかったらちょっとムカつくかも」
顔を真っ赤にして翠子さんは、ブラジャーを外そうか外すまいか迷っている。舐めてほしいくせに、プライドが許さないのだ。
ブラジャーを外すのは諦め、無防備になっている脇を舐め上げた。
「ひゃうっ……そ、んなとこっ、変態っ……変態っ!」
「だって翠子さんが胸、舐めさせてくれないんだもの。だから舐められるところを舐めることにするわ」
脇から肩を伝って、耳までしゃぶる。バタバタと無駄な抵抗をする手が邪魔だったから、頭の上でひとまとめにして抑える。反対の手は、お臍の下から鼠蹊部へと下ろしていく。水玉模様の形が歪んで、水色のパンツが青色になってしまっている。
「やっぱり翠子さんにはこの下着、似合わないわ」
「な……」
「だってここ、こんなに汚してしまって。純粋な子どもはこんないやらしい蜜、垂れ流さないでしょ?」
「ひんっ、くろ、えっ……ああっ!」
パンツの上から、ぐりぐり、と容赦なく刺激する。じゅわ、と、染みがさらに広がった。
ここも本当は直接さわってほしいんだろう。でも決めていた。翠子さん自ら脱いでくれるまでは、玄咲から決して脱がせない。
「あっ、あっ、玄咲だめっ、あーっ!」
ビクビクと痙攣する。絶頂して身悶えたその瞬間、ブラが胸からはらり、と落ちた。
「……ほら、やっぱり勃ってたじゃない」
おそらく何も聞こえちゃいないだろうけれど、約束だ。
ちゅっ、と、くちづける。