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黒と緑⑶

執筆:七賀

 

 

 

 

職員達に合わせて、一般生徒も学園の外へ出られるのは基本朝九時から夜の十八時までと定められている。外出許可がとれても出先は大病院への検診だったり、保護者との面会だったり……大人が付き添うものだから、生徒のみで行動することはまずない。欲しいものや必要なものは申請することで手元に届く、檻のような学校。玄咲は今さらどうってことはないが、入ってきたばかりの生徒が不服そうに教師を問い詰めているところを何度か見かけた。でも「気の毒」だと思うだけで、その横を通り抜けた。
騒いだところで何一つ変わらないから生徒も教師も気の毒だ。囚われてるのはこの学園の支配者を除いた全員で、自分も翠子さんも、先生や事務の人達も同じ鎖に繋がれてる。
「玄咲! ちょっと、私の下着盗ったりしてないわよね?」
食堂から部屋に戻るやいなや、上はブラジャーのみ、下はスカート姿の翠子さんがいた。一応シャツで前を隠しながら、自分のタンスの中をあさっている。
「下着って、何色の?」
「黄緑。アンタが盗ったとしか思えない」
「盗ってどうするの……
大体、翠子さんが黄緑色のパンツを持ってることも初めて知った。
「使い道がないじゃない。……あ、もしかして私が履いてると思ってるの? そっか。それなら確かめてみたらどう」
ブレザーも脱がず、ベッドの上にぼすんと倒れた。仰向けで両腕を上げる。疑いを晴らすためなら何でもできる。むしろ翠子さんにされることなら何でも、嬉々として受け入れよう。
「スカート捲ってみて」
「何で私が……! 自分でやりなさいよ」
翠子さんのシャツが床に落ちる。薄紫のブラジャーが現れた。サイズはぴったり、大きな胸と綺麗な谷間に視線が流れる。こんな姿、外の男が見たら大変なことになりそうだ。
「じゃあ知ーらない」
「アンタ……!」
今度は寝返りを打って翠子さんに背を向けた。狙い通り怒らせることに成功し、彼女もベッドの上に乗り上げてきた。
玄咲のスカートの裾を掴む手が震えている。可愛いひとだ。プライドと良心が許せないのだろうけど、翠子さんが守るレベルの道徳なんてたかが知れてる。
壊してしまえばいい。人生をつまらなくするだけの道具なら。
「あっ!」
躊躇いがちな手を逆に引き寄せ、バランスを崩したところを抱き込んだ。翠子さんの全体重と、細い絹のような髪が顔に掛かる。シャンプーは花の香りがしたけど、何の香りかは分からなかった。
肺いっぱいに吸い込んで、背中に手を回す。笑えるほど簡単にホックが外せ、ブラジャーが玄咲の胸の上に落ちた。二つの乳房が鼻先に当たる。しかも乳首はしっかり硬くなっていた。
「いやっ!」
恥ずかしそうに胸を隠そうとした手を押さえ、顔に当たる突起をひと舐めする。
「翠子さん、何に興奮してたの? こんなに硬くして……ああ、怒っても乳首立っちゃうんだ?」
「やっ、馬鹿、言っ……あぁっ」
今だけは邪魔なブラジャーを床に落とし、スカートの中に手を入れる。また翠子さんがびくんと跳ねた。布越しに割れ目を指でなぞり、くい込ませていく。
「やめ……玄咲、何で……っ」
「可愛い。翠子さんって、乱れてる時の方が素敵。私がずっと手に入れられない美しさを持ってるの。だからもっと見せて」
少しだけ強く、中指を潜り込ませた。胸が大きく揺れる。彼女の口の端から唾液が滴っているのが見えたので、勿体なくて舐めとった。
キスしたい。したら殴られるかな。絶交されたら嫌だな……なんて考えたところで、今してる行為が取り返しのつかないものだったと悟った。自分の場合ここでやめたら一生後悔する。二度目はないとして、翠子さんの肢体を堪能しよう。
「く、ろえ……っ」
名前を呼ばれて顔を上げる。直後、唇が当たった。自分のせいなのか、彼女のせいなのか分からないタイミングだった。
「んん……っ!」でも当たってしまえばこちらのもので、無我夢中で舌を這わせた。お互い内側の粘膜を絡めて、唾液が零れるまでキスをする。翠子さんのパンツが少し湿っていることに気付いた。
「翠子さん。私のスカート捲って」
身体を起こし、二人向かい合う。懇願するように下から見上げると、翠子さんは気まずそうに視線を泳がせながらも、スカートをそっと持ち上げてくれた。
玄咲が履いてる黒のパンティを見て、わずかに目を細める。
「私が盗ったんじゃないって、信じてくれた? 翠子さんの勘違いだって」
「えぇ……ごめんなさい」
「いいの。今度は私の番。償いとか謝罪はいらないから、翠子さんともっと繋がりたい」
胸の形を確かめて、優しく揉みほぐす。それだけで後ろへ反り返り、頬を林檎のように紅く染めた。
こんな綺麗な身体を他の誰かに好き勝手されたら、こちらが狂ってしまいそうだ。ふぅとため息をついて、彼女を仰向けに寝かせる。そしてスカートを捲った時……目を疑った。
「翠子さん。黄緑の、履いてるじゃない」
臍が見えるまでスカートを上げてみると、白い太腿の上には黄緑のパンティがあった。どういうことなのか。
「ボケちゃったの?」
「そんなわけないでしょ! わざとよ。……もう一回だけ試したかったの。アンタのこと」
彼女は空いた片手で顔半分を隠し、横へ向いた。
「私に疑われて、攻撃されたらどんな反応をするのか見たかった。そういう時に人の本性が垣間見えるじゃない。信用できない人間に大事な作戦は委ねられない、し」
作戦というのは、彼女が以前言ってた学園の外へ抜け出すことだろう。でもそれは、保護者に許可をとらなければ駄目だと説いた。一旦家へ戻っても必ず連れ戻される。でも翠子さんは「それなら外で、自分の力で生きていく」と言った。
生きてくって、普通の高校生より外を知らない高校生がどうやって? バイトを必死にして食べるものには困らなくても、家を借りるのはどうする。それこそ危ない仕事で住み込みをするしかないんじゃないか。まっとうな機関に助けを求めれば、必ず親元に帰されるのだから……翠子さんはそういうことをまるで考えてない。ただ漠然と、何とかなると思っている。時々歯痒く、そして愛しい。成長するにつれて失ってしまった純粋な心をずっと持っている。
尊い。
「玄咲は……どうして怒らないの。濡れ衣を着せられても平然としてられるの」
「翠子さん以外のことならどうでもいいけど。翠子さんに疑われたなら、全力で誤解を解くわ。だって貴女のことが大好きだから」
頬に手を添えて微笑むと、彼女はまた戸惑いを見せた。
「分からない。好きになってもらう理由がない」
「大丈夫、そのうち分かる。ゆっくり、教えていくから」
今先生が巡回に来たら大変なことになる。でも、もうどうでもよかった。無理やり部屋をこじ開けようものなら、きっと翠子さんを連れて窓から飛び降りる。そして下に落ちてからもこの行為を続けるだろう。
色が変わった。少し緑色に見える下着を引き下ろす。人の手が入ってない少女の聖域だ。両脚を限界まで開かせると「やあっ」と声がしたが、聞こえないふりをした。
ここが一番、翠子さんの匂いがする。舌を這わせた。既に濡れて光っているそこを何度も何度も、喉を潤すつもりでしゃぶっていく。
上を見上げてみたけど、大きな胸が上下にバウンドしてるだけで翠子さんの顔が見えない。イクところが見られないのは残念だけど、今日は我慢しよう。
中指を入れ、コリコリと硬くなった部分を擦る。指に力を込めたとき、可愛らしい叫び声が部屋に響いた。
「あっ……あああぁっ!」
いやらしい液体が指に絡む。なんて卑猥で美しいんだろう。
羞恥心なんて全て捨ててしまった翠子さんが、脚を全開にして痙攣している。そういう意味では間違いなく犯した。汚してしまった。
「お、母さん……
もう意識は飛んでるはずなのに、翠子さんは一言二言声を漏らした。
彼女と彼女の母親はどういう関係なのだろう。興味深いけど、考えるのは後だ。今は身体を拭いて、自分も下着を取替えないと。
彼女の姿に満足して、濡れた指を舐める。
「本当に、悪い子」
無意識に出た言葉は、誰に向けたものか分からなかった。