執筆:八束さん
「ヤーヒロさん」
と、背後から抱きつき、すかさず乳首を摘む。
好きな子にちょっかいをかけたい、小学生男子みたいなことをしているという自覚はある。それが最近、楽しくてならない。
「ピアス、ちゃんとつけてくれてるんですね」
「つけておかないと穴が塞がっちゃいますから。またあけられるのが手間なだけです」
「でも何もこのピアスでなくてもいいでしょうに」
感触でわかる。これは以前、尚登があげたピアスだ。
「丁度手近にあって便利だっただけです」
「そうですか。でも、嬉しいですよ。プレゼントなんて所詮送り手の自己満足なんで、煮られようが焼かれようが文句は言えないってわかってるんですけど、でもこうやってつけてもらえているのを見るとやっぱり」
言いながら手を、下半身まで滑らせる。
「こっちもつけてくれてます?」
「つけるわけないでしょう」
「そうは言っても、一応捨てずに取っておいてくれたんですね」
机の引き出しをあけるとそこに、ペニスリングがある。まったく、医務室には相応しくないものが。
「捨てるのも面倒だっただけです。丁度いい。持って帰ってくれませんか」
「そう言わずに、ちょっと試してみませんか。いつか使うときが来るかもしれないじゃないですか。そのときのために、ほら。実は大きさが合うか心配だったんです」
「話聞いてましたか。大体、使うときなんて……ちょっ」
口で負けそうになったら、とっとと実力行使してしまうに限る。素早くジッパーを下ろすと、見慣れたものが露わになる。リングを根元まで通し、宥め賺せるように愛撫していく。
「んっ……」
後ろから抱え込んで乳首と同時に愛撫する。リングに戒められているせいで、いつもより赤く、大きく腫れ上がっていく。肌が白いから、余計にグロテスクだ。その先端がぴた、と腹を打ったタイミングを見計らって、囁く。
「ぴったりですね」
「……っ」
大きい、小さい、よりも、きっとヤヒロさんは嫌がるだろうと思った。
「やはり俺の見立ては正しかったですね。よかった。ヤヒロさんのことは何でも正しく把握したいんで」
リングの上から、親指と人差し指でも輪っかを作って搾るように愛撫すると、とうとう声が漏れた。それに煽られ、自分も我慢できなくなった。膝の上に乗せ、下から挿入する。ちょっと性急だったかと思ったけれど、ヤヒロさんのそこはすんなり自分のものを飲み込んでくれる。
「ふっ、んっ、あ、ふっ……」
突くたびに声が漏れ、反り返ったペニスがより激しく腹を叩く音がする。けれどほんの僅か、透明な液体が染み出しているだけだ。それを人差し指で全体に塗り広げてやる。つっ、と竿の上から下まで一気に指を滑らせると、全身をがくがく震わせて、後ろの締めつけがキツくなった。
「ああっ、いい……ヤヒロさん、いつもよりすっごい締めつけ」
貪欲、という言葉より、さらに凄まじいものを感じる。弟とはとてもできないプレイだ。弟は気を抜くとすぐ放心状態になってしまうから、時々尻を叩いて促してやらなきゃならない。それでもここまで相手を満足させることはできない。まぁ、可愛い弟のやることだったら、結局は何でも許せてしまうのだけれど。
出す、というより、搾り取られる、という感覚に近かった。
ヤヒロさんも、ナカだけで軽くイっている。
哀れなほど腫れ上がったそこを解放してやろうとリングを外したとき、ヤヒロさんが言った。
「やっぱりお返ししますよ」
「ん?」
「これ、あなたの方が必要なんじゃないですか。前から思ってましたけど。出すの早すぎやしませんか」
相変わらずな物言いだ。こんなことを言われたら普通はショックだ。けれどショックに感じるどころか、むしろ……
「それはヤヒロさんがきゅうきゅう締めつけてくれるからですよ。俺のものが欲しい欲しい、って。こっちの口は本当に素直ですよね。だから俺も素直に出しちゃうんですよ」
言いながら、とろとろと白濁を溢れさせている穴の周りをくるりとなぞる。
「ちょっ……」
「でもヤヒロさんを満足させてあげられないのは悔しいんで。そうですね、確かにヤヒロさんの言うとおり、俺がつけた方がいいかもしれませんね」
ヤヒロさんから外したリングを自分につける。まさか本当にするとは思っていなかったのだろう。自分も。ヤヒロさんに言われるまで、こんなこと考えもつかなかった。感謝したい。ヤヒロさんとひとつのものを共有する。思った以上の背徳感だ。
ヤヒロさんの表情があきらかに変わった。普段……いや、セックス中でも、感情の見えない彼から感情を引き出せると、イかせたときのような愉悦に浸れる。
「ヤヒロさん、まだ足りないでしょう。これで大丈夫ですよ。ヤヒロさんが満足するまで俺のこと、使ってくれていいですからね」
ベッドに優しく仰向けにさせる。やはり最後は顔を見たい。とろとろに溶けていく様を見届けてやりたい。
リングをつけたペニスを挿入する。
「っ……! なお、と、さん、これ……ああっ!」
すぐに気づいたらしいヤヒロさんが身体を起こそうとするが、優しく制する。
「どうですか? 気持ちいいですか? いつもより」
「そ、こっ……だ、め……あああっ」
「ここ? もっとごりごり擦ってあげますね」
「あっ、ああっ、やめっ……!」
腰を引こうとしたので、両手でがっつり掴む。奥の奥まで潜り込ませたあと、ナカの感触を楽しみたくて一度、腰をゆっくりと回す。しばらくゆるゆると揺さぶったあと、一気に引き抜く。声にならない声を上げて悶えるヤヒロさんを見下ろす。そしてまた、リングを嵌めた先端を押し込む。
「つ、ける場所、が、違うじゃないですか……!」
根元ではなく、竿につけたリングをヤヒロさんが睨めつけている。
「だってこの方が、ヤヒロさん、気持ちよくさせてあげられると思って。ほら、この出っ張ってるとこで、ヤヒロさんの弱いところ、抉ってあげますね」
「あ、ああーっ!」
何往復かさせると、背中を反らせてヤヒロさんは派手にイった。精液は顔まで飛んでいる。同時に、意識も飛ばしてしまったみたいだ。
飛び散った精液を戯れに指ですくい取っていると、カッ……とヒールの音がして、誰か入ってくる気配がした。
「感心しないわね、ひとのオモチャを横取りするなんて」
「横取り? ヤヒロさんは皆のヤヒロさんですよ。誰のものでもない。それよりひとの情事を隠し撮りする方がよっぽど感心しませんよ。……母さん」
「あら」
そこで彼女はようやくスマホのビデオを切った。
「あなたが餌をやらずに放置している可哀想なお魚さんに、これはいい餌になるかもと思ったのだけれど。手に入れると途端に興味をなくすのは悪いくせね、親子共々」
口ぶりでわかった。少なくとも母はヒロトさんのことを知っている。
「大丈夫、あのひとはまだ知らないわ。私も面倒ごとに巻き込まれるのはゴメンだし」
ジャケットのポケットにスマホを仕舞いながら、ヒールを鳴らして母が近づいてくる。痴態を見ても顔色ひとつ変えない。それは自分も同じか。
「それにしても最近ますます、ヤヨイさんに似てきたわね」
ヤヨイ……。ヤヒロさんの母親の名前だ。
おそらく、あのひとはヤヒロさんに、ヤヒロさんの父親を重ねて見ている。誰かの面影ばかり背負って、ヤヒロさん自身は一体……
「でもまあヤヨイさんは、こんな汚らしいものでよごれてはいなかったけれど」