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安眠

執筆:七賀

 

 

 

俺もよく覚えてないことがある。
いつ弟とひとつになったのか、どうしてそうなったのか。
もっと小さい頃の記憶……とか。
昔どこかで読んだ物語と重なって、どっちがどっちだか分からなくなっている。
「ナオト」
珍しく自分を呼ぶ声がしたので、考えるより先に飛び起きた。すぐ傍でヨミがナオトの顔を覗き込んでいる。
「苦しそうだった」
魘されていた、と言いたかったようだ。
「別に、何でもない」
でも偶然触れた額が汗でびっしょりなことに気付いた。これではさすがのヨミも騙されないだろう。
汗を流したいからシャワーでも浴びるか。ついでに彼も誘って。
「ヨミ、一緒に……
────
頭を締め付けられてるみたいだ。
「うん」ヨミが俺の手を取る。
頭痛が、最近止まない。

足元でぴちゃぴちゃ水滴が跳ねる。いつの間にか定番になった二人一緒の入浴。半分しか湯が溜まってない浴槽に入り、互いの体温を交換する。
遠慮がちだったヨミの手つきも随分積極的になって、嬉しいような寂しいような気持ちだ。
好きでもない相手に平気でキスする、自分に呆れる。
出すものを出したら手持ち無沙汰になって、玩具を手に取って眺めていた。それを見たヨミが肩を窄めて呟いた。
「ナオトも誰かに捨てられたの?」
「は……
大人しい彼の不意打ちに、どう答えたらいいのか分からなかった。
ただ穏やかな気持ちで聞き流すこともできず、立ち上がってヨミを突き飛ばした。
「うるさい! 黙ってろよ!」
幼稚な反応だ。動揺の裏にある感情も、きっと彼には見抜かれてる。
叶うなら一生、誰にも触れられたくないところだった。ヨミは空っぽな奴だし、悪気なんて持ち合わせてないだろう。現に今も自分の手を優しく掴んでいる。
謝るか。ヨミの頬を触ろうとした……けど、手は意思に反して彼の髪を掴んだ。
「いたっ……ナオ、ト……!」
どれだけ離そうとしても、ヨミの髪を引っ張ったまま離そうとしない。痛がる彼を見て呼吸が荒くなる。
「イオ、やめろ……!」
何でこんな時に出てくるんだよ。
手も足もコントロールできない。なのに意識だけは明瞭だ。
「あ……っ」
手が勝手に下へおりて、固い入口をほぐし始める。
「次はこいつで遊ぶことにしたんだ」、とイオの声が反響した。
遊ぶとは違う。でも言い返したところでイオには届かない。
あの時の仕返しだと笑われたけど、いつのことか分からなかった。
「んっうぅ……っ」
風呂から移動し、シーツに突っ伏した。犯されやすいように腰を上げるが、ナオではなくイオがそうさせている。何も知らないヨミは義務のように、小さな穴に舌を這わせていた。
ナオトの異変に気付いているはずなのに、何も言わない。有難いが、何故それほどまでに従順なのかと、理不尽な怒りが燻る。
指や舌とは違う硬さのものが当てられた時、身体が魚のように跳ねた。
「あっヨミ、やだ……っ!」
彼の耳に届くにはわずかに遅くて、一気に貫かれた。普通の人間なら絶叫することも、躾られた身体は喜びに震える。
「んっ……うっ!」
最初は覆い被さるだけだったのに、突然全体重を預けてのしかかってきた。この圧迫感だと別の意味でイきそう。
「ちょっ……こら!」
ヨミは力尽きたのか、ナオトの上に乗ったまま眠ってしまった。
勃起したまま寝るとか、信じられねえ……
エッチに辿り着くのも一苦労だ。辿り着いても絶望的に下手だし、ほんと最悪。そして、最高。
ざまーみろ、イオ。
ヨミに感謝する日がくるとは思わなかった。柔らかいシーツに包まれ、これ以上なく密着する。気付けば手も足も自分の意思で動かせるようになっていた。
でも、もう少しこのままでいようと思う。
今夜も彼に触れながら眠れる。それが可笑しいほど嬉しかった。