執筆:八束さん
「シバさん」
「イクミくん」
「シバさん、好き。シバさんの全部愛したい。シバさんの全部僕のものにしたい」
「イクミくん、ちょっと待っ、待っ……」
「……嫌?」
「嫌、って言うか……」
「嫌じゃないならいいよね」
「嫌じゃないからいいってわけでもないんだけ……ちょっとだから待っ……どこ舐めてんのっ」
「可愛い、シバさんの乳首」
「可愛いとか何言っ、て……ああっ」
「……違うな。乳首が可愛いんじゃなくて。乳首舐められて感じちゃうシバさんが可愛いんだ。いやでも乳首もやっぱり可愛いかな。まぁどっちでもいいや。ねぇ、もっと声出して。気持ちいいって言って?」
「まったくどこでそんなの覚えて……」
「すごいシバさん、前こんなに硬くなってる。ねぇ、感じてくれてるの? ああもう我慢できない。早く隅々までシバさんを愛したい」
「イクミくんっ、そんな急に駄目っ、あああっ……!」
「痛いかな。ごめん。でもすぐ気持ちよくなるよ。早くシバさんとひとつになりたい。シバさんのいいとこいっぱい愛してあげるからね」
「イクミくん……あっ、イクミくんっ、……き」
「き? ……何? 言って」
「……気持ちいい。気持ちいいよ、イクミくん」
「嬉しい。シバさん。好きっ、好き、好き……!」
「イクミくんっ……んっ、あっ、ああっ」
「ねえシバさん、ヤヒロさんともこんなことしたことあるの?」
「ないよ……ヤヒロとは……あっ」
「そっか。じゃあ僕が初めてなんだ。嬉しい。僕も初めて。こうやって誰かを愛するのは初めてだよシバさん」
「イクミくん……」
「シバさん好き……シバさんシバさんっ……!」
……これだから子どもは嫌いだ。熱しやすく冷めやすい。前まではあんなに……
あんなに……
「あんなに、何だ……」
目が覚める。
妙な夢を見てしまった。
シバが、まさかイクミくんと……
振り払うように頭を振った。自分で思っていた以上に、そうとう参っていたらしい。参って……一体、何に?
こんな夢を見てしまったのは、きっと……あれだ、シバが余計なものを持ってきたりするからだ。漬物はそうそう腐りもしないから、古くなったと言い訳に捨てるわけにもいかない。
上体を起こし、潰れかけた煙草のケースに手を伸ばす。すべてを覆い隠してしまうように、煙を吐き出す。
「寂しくなりましたね」
最近彼は、ノックもせずにやって来る。
「またあなたですか、尚登さん」
「はい、また俺です。ヤヒロさんが寂しがってるような気がしたので」
「今までがうるさすぎたたけです」
尚登はフッと笑うと、無断で煙草を一本抜き取った。今さらあれこれ言うのも面倒なので黙っておく。火を探しているような素振りを見せたが、無視する。
「そうですよね、ヤヒロさんの寂しさを本当の意味で埋められるのはひとりしかいませんもんね」
視線を逸らすと、逸らした位置にまた彼はやって来る。
するとおもむろに、煙草をくわえたまま顔を近づけてきた。よける間もなかったので、しかたなく火を移してやる。
「否定しないんですね」
「何がですか」
「寂しさを埋められるのが誰なのか」
「肯定もしてません」
「今はまだ島から出られないでしょうから、火だけでもヒロトさんのところへ運んであげますね」
「……心遣いいただくのは有り難いんですけど」
吐き出されたふたつの煙が、絡まりあって空に昇る。
「ヒロトさんは煙草は吸いませんよ」