執筆:七賀
「弟の器候補が消えて残念だったね」
またひとり、新しい「子」を島に連れてきた。施設に預けてさぁ帰ろう、というところで椎名教授に出会してしまった。
歩きながら眺めていた手帳を仕舞い、尚登は微笑をたたえながら首を横に振る。
「身体の代わりはいくらでもいますから、何もイクミ君に拘る必要はありません。むしろ適合性がないと分かって安心しました。彼はヤヒロさんへの執着が凄いから、その意思が脳や心臓に刻まれてしまってるんじゃないかなぁ、と」
冗談めかして、側頭部をひとさし指でとんとん叩く。双子の弟……ナオに限ってはヤヒロに心酔している。そこでイクミの意志と合体したら手に負えないな、と苦笑した。そんな可能性は無に等しい為意趣返しのつもりだったが、教授は興味深そうに頷いた。
「記憶転移は心臓移植なら既に証明されている。人の記憶は脳だけでなく細胞にも刻み込まれているからね。ナオトくんを切り離す時はまた新たな実験も検討してみようか」
仮にも人の弟を何だと思ってるのか。妖しく笑った時の教授は人間とかけ離れた存在に見える。
この世の全てのものを実験動物として見ている。教え子も愛人も、自分の妻ですらも。実年齢より若く見える彼の姿も、実は借り物なのではないか……とあらぬ妄想に駆られてしまった。
「そうそう、大事なことを言い忘れていた。ヤヒロは今仕事ができる状態じゃないからね。今後しばらく、ナオトくんは私が管理することになった」
「そう……ですか」
無表情を保ったものの、軽く唇を噛んだ。
本当に玩具探しが大好きなひとだ。ヤヒロが駄目ならイクミ、イクミが駄目ならナオトか。
「承知しました。でも、治療と関係ない薬は与えないでくださいね。イクミ君の時みたいに」
ようやくヤヒロの元からナオトを回収できると思ったのに、まったく面倒な存在に捕まってしまった。
教授と別れ、ポケットの中のキーケースを取り出した。学校から離れた建物、その地下に彼はいる。
「……さん、……ヤヒロさん……」
啜り泣くような声に引き寄せられると、大抵ナオトは鎖付きの首輪に繋がれ、床に倒れながら自身のものを慰めている。
このところずっと不安定だったが、最近は特に酷い。イオが圧され、ナオの人格が色濃く出ている。ヤヒロを求めている姿を見ると、ついイクミを彷彿としてしまう。周りの子ども達を振り回す彼は本当に罪深いひとだ。
けどそれは自分も一緒────。
「ナオト。駄目だよ、こんな汚い床に擦り付けたら。バイ菌が入っちゃう」
ナオトを抱き起こし、新たに取り出した鍵で首輪を外した。
教授の管理下に置かれたら、また新しい鍵を用意しないといけない。面倒だ。不安というよりも、ただただめんどくさい。
床に落ちた服を広い、彼をシャワールームへ連れて行く。このフロアは全てナオトの部屋だ。精神が不安定になり、治療が必要となった彼はここに閉じ込められることになった。
「兄……さん?」
お湯の温度を確かめていた頃、ナオトはこちらを向いた。今まで尚登がいたことも気付いてなかったような表情だった。
何も知らない子どものような瞳で、尚登をまっすぐ見つめる。
「兄さん……ヤヒロさんは?」
ハンドルを回してお湯を止める。彼の身体だけ洗う予定だったが、気が変わった。
「ヤヒロさん、しばらくお仕事お休みするんだって。だから今日は兄さんとお風呂入ろうか」
弟を弄ぶ兄。酷い人とか悪い人とか、好きなだけ罵ればいい。
でもそうさせたのは誰だ。
「ふ……あっ、大きい……っ」
バスチェアに座り、膝の上にナオトを乗せる。もちろんただ乗せているわけではなく、彼の小さな空洞に自分の性器を埋め込んでいる。久しぶりということもあるが、窮屈で苦しいぐらいだった。
中が満たされれば良いのか、ナオトは腰をがくがく震わせて仰け反っている。尚登の肩に頭を乗せ、口端から糸を垂らした。
「もうイッちゃったの? 悪い子」
気付かぬ間にナオトは何度も中イキしていたらしい。尖った乳首を指で引っ張るとまたきつく締め上げてきた。ボディソープは全て洗い流されてしまったはずなのに、白い液体が穴から零れている。
あぁ、自分の精液か。
イッたことに気付いてないのは尚登も同じだった。自分が思っている以上に昂り、身体のコントロールを失っている。
ナオトの腰を掴み、壊れそうなほど奥を突いてやった。いっそ壊れてしまえばいい、ぐらいの勢いで。彼の悲鳴と喘ぎ声が反響する。
ひとりでもふたりでも、「弟」という存在を奪われたくない。それは尚登が初めて「兄」と呼ばれた日から、密かに根付いていた願望だった。
教授が新しい玩具を手に入れる度、尚登のものが失われていく。……いずれ自分自身、彼に取り込まれてしまうのではないか。そう考えて身震いした。
想像を打ち消すように、ナオトの大事な部分を的確に壊していく。前立腺を刺激し、何度も前を扱いた。体液が豪快に足元に零れたが、流れっぱなしのシャワーが全て攫ってくれる。
「尚、登……もうやあぁ……っ!」
久しぶりでスイッチが入ったのか、今度はイオが現れた。身体を捩り、必死に首を振っている。
「お尻壊れちゃうっ」
「でも、気持ちいいでしょ? イオは良い子だから分かるよね?」
回答を待つ気もなく、彼の片脚を持ち上げて奥の出っ張りを擦った。まるで獣のような声を上げ、イオは絶頂した。快感が強過ぎるのか、性器を引き抜いた後も全身を震わせている。全部吐き出したペニスの先端に指を宛て、綺麗に洗ってあげた。
床に寝かせたナオトに覆い被さり、深く口付けする。彼は天からの贈り物だ。尚登は記憶を遡る。
気付いたら「あの家」に居て、気付いたら「弟」ができていた。全て仕組まれていると分かったのは大人になってから。
だからせめて、この小さな宝物だけは自分の掌に収めておきたいと願った。
脱衣室で鳴り響く着信音が、体液と一緒に排水口に流れていく。