8の日記念SS
執筆:八束さん
パパは優しくて、頭がよくて、憧れで、大好き。
パパは島の研究所で、研究員として働いている。何をしているかまったくわからないけれど、何かとても難しくて、そして皆のためになるお仕事をしているんだって聞いたことがある。僕も将来はパパみたいになりたい。
研究が忙しいからなかなか会えないけれど、たまに会ったときは遊びにつれていってくれたり、欲しかったものを買ってくれたりする。会えない間は寂しいけれど、会ったときに褒めてもらえるよう、それまでは学校の勉強を頑張る。「パパが子どもだったときはこんなにできなかった」と言ってくれたのが、今までで一番嬉しかった。
勉強を教えてくれたり遊んでくれたり。でもパパといて一番楽しいのは、夜だ。
ひとりでいても寂しくないよう、パパは魔法をかけてくれる。
初めは痛くて、自分の身体が何か別のものに変わってしまったみたいで怖かったけれど。
でも今はちゃんとそれが、気持ちいいこと、だって、わかる。
気持ちいいから、もっとしてほしくて、待ちきれなくて、自分の方からおねだりしてしまう。
「パパ……ちょうだい?」
「もうこんなにしてたんだ、いけない子」
いい子だって褒められたい。でも夜は、何でだろう、悪い子だって罵られたい。もっともっと悪い子になりたい。
「あっ、パパっ……そこっ」
どこもかしこも。パパの大きくてあたたかい手でさわられてると気持ちよくてしようがない。
「いっぱい可愛がってあげるね」
「うん」
会えないときの寂しさも全部、全部、埋めてほしい。
パパのものは大きくて、受け入れるときどうしても一瞬、身構えてしまう。でもこれを乗り越えたら、気持ちいい世界に行ける。
「すごい、もうすっかり、パパの形になっちゃったな」
「うん、パパのかたち、おぼえてる……」
「もうパパ以外じゃ満足できないな。駄目だぞ、他の男のものを咥えこんじゃ」
「しない。しないよそんなこと。どうしてそんなこというの? パパがいてくれたらそれだけでいいのに」
……でもパパは、いてくれなかった。
パパの、優しいまなざし。
でもどうしてだろう。あらためて見上げて気づく。パパの瞳の中に、僕の姿が映っていない。光をも吸い込んでしまいそうな漆黒……いや、暗黒の瞳。
「パパ……?」
呼びかけた瞬間、激しくナカを突かれた。
「ひゃあっ、ああっんっ、はげしっ、あっ……ああっ!」
「余計なことを考えたな」
「パパ……」
やっぱりパパには全部、お見通しなんだ。
「お前はただ快楽に溺れていればいいんだよ……ヤヒロ」
「っ……!」
飛び起きる。
その勢いで、身体中につけられていた電極がブチブチと外れた。
「いい夢を見られたかな」
額から流れた汗が目に入って痛い。
「……いろいろ作り込みが甘くないですか。あのひとは俺のことを『ヤヒロ』だなんて呼ばなかった」
「どんな夢を見ていたか知らないけれど、それは全部君の中にある願望が作り出したものだからね」
そんなわけはないと思ったが、反論するとあとでどんなひどい目に遭わされるかわかったもんじゃないから、黙っておいた。
「それにしっかり感じていたみたいだし」
「そんなこと……」
立ち上がろうとしたところ、制するように鼠蹊部の窪みをさわられた。
「そのままじゃつらいだろう」
カテーテルが尿道を押し分けて入ってくる。恐怖と快感がないまぜになる。
「っ、あ……ああっ」
こんなことなら素直に感じていたことを認めた方がよかったのか。いや、たとえどう答えようと、彼はやろうと決めたことを決して曲げはしないのだ。
尿道から前立腺を突かれるたび、放出できない快楽がたまっていく。快楽……なのかどうかもわからない。
「抜、いて、くださいっ……お願いしますっ」
あられもなく懇願したのはいつ以来だろう。深く深く沈めていたものを、このひとはいつも目敏く見つけて引き上げてくる。瘡蓋を、治りかける寸前で剥がされるみたいに。
「っ、ああっ!」
ひといきで引き抜かれる。ばちゃばちゃと水音が聞こえたが、自分が何を放出しているかすらもう、わからなかった。
「ああ、子どもみたいに漏らしてしまって」
前立腺、その奥にある膀胱を直接刺激されたらこうなるのは当然だ。でもこのひとの前でだけは見せたくなかった。このひとくらいしか、こんな悪趣味なことをするひとはいないけれど。
「まだ全部出しきれていないみたいだね」
「そん、なっ、もう……あああっ」
またカテーテルを押し込まれ、前立腺を執拗に突かれた。のけぞるたびに、胸につけられたピアスチェーンが擦れて、それすらもぞわぞわとした快感になる。
チェーンを引っ張られるのと同時に、カテーテルを引き抜かれる。とろとろと白濁した液が溢れ出す。
「はっ……あ、あ……」
「ようやく出せたね。たまにこうやって躾けてあげないと、君は『出し方』を忘れてしまうみたいだ」
何度か絞り出すと、満足したように教授は、おもむろに胸のピアスを外して言った。
「ちゃんと出せたご褒美だ。久々に自由にお散歩しておいで」
自室に戻る途中、一番会いたくない相手と遭遇した。
「ああ、ヤヒロさん」
尚登。
何でこんなところにいるのか。平然とした顔をして。
「あなた……わかってるんですか」
「何がですか」
「あなたがまだお咎めを食らっていないのは、あなたの悪巧みがバレてないからじゃない。泳がされてるから、なんですよ」
「それをわざわざ教えてくれるなんて。知りませんでした。ヤヒロさんがそんなに俺のことを思ってくれていたなんて」
「やめませんか。何でも自分の都合のよいように解釈する癖」
「悪く解釈するよりいいじゃないですか。今日はプレゼントを持ってきたんですから」
「そんなもの持ってくるくらいなら、あなたが顔を見せないことが一番のプレゼントなんですけど……」
言ってる最中にも、尻に下半身を押しつけてくる。まったくいい歳して盛りのついた犬みたいに。教授とは違う強引さが彼にはある。
こうなってしまったらどうしようもない。幸い、害になるようなことはないから、とっととやって終わらせよう。近くの、使われていない研究室に誘導する。思えば彼とは、こんな性急なセックスばかりしている。まるでベッドまで我慢できずに求め合う恋人同士のようだが、実際はベッドまで行くのが面倒だからだ。野良犬のようにフラフラしている彼とは、野良犬のようにそこらでまぐわうのが似合いだ。
後ろから手を回され、シャツをはだけさせられる。腰に回っていた手が胸に這い上がってきたとき、彼の動きがふと、止まった。
「あれ、ピアスしてないんですね」
どう答えたものかと思っていると、
「丁度よかった」
彼は何故か上機嫌だった。
「何がですか」
「プレゼント」
そう言うと彼は、ピアスを取り出した。
「これ、何だと思います?」
「何、って……」
「見覚えありませんか」
何の特徴もない、シンプルなシルバーのピアス。見覚えがあるもないも、どこかで目にしていてもおかしくない。
「この素材、ヒロトさんの義手の素材と同じなんですよ。丁度、装具士の子と仲良くなって。作ってもらっちゃいました」
「作ってもらった、って……」
「つけてあげますね」
ゆっくり、焦らすような手つきなのが腹立たしい。
時間をかけて身体をほぐしていくように、時間をかければ心もほぐれると思っているのだろうか。気持ちいいことはイコールよいことだ、と、馬鹿正直な思考が羨ましく、恨めしい。
ぐっと突き入れられ、思わず声が漏れる。彼の動きに合わせて身体が揺れる。これ以上ない大人なことをしているくせに、彼には子どもをあやしているみたいな雰囲気すらある。
不意に乳首をピアスごと摘まれた。
「気持ちいい?」
「っ……」
ナカを締めつけてしまったのは単なる反射だ。そこに特別な意味は何もないが、
「ヒロトさんにさわられてるみたいじゃないですか」
反論するのも面倒だったので、黙っておく。
「はっ……気持ちいい。さっきよりギュッて締まった。あーイキそう。ねえ、出しちゃっていいですか、ヤヒロさんのナカ」
「いちいち聞いてこないでください」
「いちいち聞いてこそセックスじゃないですか」
「ほんっと、あなたってひとは……っ、ああっ!」
その瞬間、一番弱いところを容赦なく抉られた。今までそこを巧みに避けていたのはわかっていたが、本当にタチが悪い。主導権が自分にあると思って。
駄目押しのように乳首を引っ張られ、終わると思っていた絶頂をまたいたずらに長引かせられてしまう。
「いつかヒロトさんに本当にさわってもらえる日まで、これはヤヒロさんが自由に使っていいですよ」
言いたいことは山ほどあった。
でもすべてが面倒臭くて、目を閉じる。
尚登を振り切って医務室に行くと、床にイクミが倒れていた。
全裸でビクビク震えている彼。
ああそういえば、お仕置きと称して放置していたんだっけ。一体何のお仕置きだったか……忘れてしまった。
「イクミくん」
声をかけると、彼はゆっくり顔を上げた。
「ヤヒロさん……」
床がびしょびしょに濡れている。床に擦りつけてイってしまったらしい。
「我慢できなかったの?」
「やだ……」
「やだ、じゃないでしょ」
「こんなんじゃやだ。こんなんじゃ足りないからぁ」
涙目になりながら尻を振る。そういえば後ろにおもちゃを入れっぱなしにしたままだった。
「嫌だって言いながら美味しそうに咥え込んだままじゃない。てっきりもう出しているものかと思っていたのに」
言いながら、出したらお仕置きする、と言ったことを思い出した。彼が絶望的な目で見上げてくる。
振り払っても振り払っても追い縋ってくる。まったく意味がわからない。縋る相手を間違えている。自分なんかに関わっていいことなんてないのに。
呆れを通り越して、彼の目には自分がどんな風に映っているのか。ちょっと興味深くはある。
「ヤヒロさんの方がいい……ヤヒロさんのが欲しい……」
「だったら示して見せて」
すると、ぐずぐずにとけた後ろを自分の指で広げながら、またがってきた。
「ヤヒロさんっ……ああっ、ヤヒロさんのあったかい……んあっ」
入れただけでイきそうになったのがわかったから、軽く尻を叩いた。
「やあっ、ヤヒロさんっ」
「ほら、もっと締めて。こんなにユルユルになって。本当に俺のが欲しかったように思えないんだけど」
「嫌だヤヒロさんのがいいのっ、ヤヒロさんヤヒロさんっ」
必死に腰を振る。尻を叩いていた手を上に滑らせ、背中を撫でてやると、首根っこにぎゅうっとしがみついてきた。
「あっ、あっ、ふあ……あ」
軽く突き上げてやると、もうまともな声を発することができなくなっている。開けっぱなしの口から垂れた唾液で肩を濡らされてしまった。まったく赤ん坊みたいに。
しがみつきながら、絶頂したのがわかった。彼のナカをよごしたくなかったから引き離そうとしたが、しがみついて離れない。ずっとくっついていたら、いつか溶けてひとつになると信じているみたいに。
そのとき外がパァッと明るくなった。直後に、ドン、という音。
「ひっ」とイクミが声を上げる。
「花火だよ」
「花火?」
部屋の中が鮮やかな赤や青に染まる。
「イクミくんは見るの初めてだったかな。大丈夫、怖くないよ」
今日は夏祭りだったか。歳を取るとすっかり行事に疎くなってしまう。そういえば昔も誰かと花火を見上げたような。いつだったか、誰とだったか……
「ヤヒロさんの色」
裸であることを気にすることなく、とたとたとた、と、イクミが窓際に寄って花火を指差す。
「今度はイクミくんの色じゃないかな」
適当に言ったのに予想は的中して、緑色の花火が打ち上がった。
「すごい、ヤヒロさん何でわかったの?」
花火よりきらきらと明るいまなざしに、ハッとする。
この子の中にもまだ、あるのだ。決して消すことのできない部分が。
そしてこのようなまなざしを、自分も、いつか、どこかで……
視界が先輩でいっぱいになる。
しばらくして、また離れて、花火の色に照らされる先輩と目があって初めて、キスされたんだ、ということに気づいた。
「ごめん、我慢できなくなった」
「先輩」
ドン、ドン、と花火が上がるたびに大きくなる歓声。
夏祭りの夜。
揃って浴衣を着て。先輩とふたりきりで。夢みたいだ。
夏休みは部活の練習でつまっている。加えて先輩には受験勉強がある。だから夏祭りは諦めていた。育海くんに近所のお祭りに誘われたけれど、イマイチ乗り気になれなくて断った。そうしたら寛人先輩が、地元からちょっと離れたところのお祭りに誘ってくれた。嬉しすぎて、速攻でOKした。OKしたあとで、その日は部活がある日じゃないかと思ったら、先輩は、「大丈夫、その日は熱が出る予定だから」なんて言う。「たまにはいいだろ、息抜きしないと」
どうしよう。先輩と一緒にいるとどんどん悪い子になっていってしまう。でもそれが嬉しい、なんて。
先輩のラインにうきうきと返信していると、家のチャイムが鳴って、育海くんが夏祭りで個数限定販売されるとかで話題になっていたまるごとメロンのクリームソーダを持ってきてくれた。
「こっ、これすんごい美味しかったんで! 先輩にも是非食べ……飲む……食べてほしくて! 甘いもので疲れ取って元気だしてください!」
「あ、有り難う育海くん」
「ちなみに上に乗っかってたアイスはこいつが食べました」
育海くんの後ろにいた女の子がずいっ、と、一歩前に進み出て言う。女の子……いや、確か育海くんと同級生の……
「あーっ、余計なこと言うなって十波! 違うんですっ、急いで持って帰ろうとしたんですけどっ、でもどーしても間に合わなくて上だけはしかたなく……。でもっ、アイスはどってことない普通のアイスなんで! 売りはこの、メロンの果肉を贅沢に使ってるとこなんで!」
「有り難う、わざわざ……」
八尋にメロンを渡すなり、育海くんはアタフタと逃げるように去っていってしまった。正直、以前から、彼がどうして自分に好意を持ってくれているのか、よくわからない。
ソーダはだいぶ気が抜けてヌルくなっていたけど、彼の好意が甘く染みた。きっと彼は想像すらしていないだろう。自分が皆を欺いて、抜け駆けして、先輩を独り占めにしてこんないけないことをしているだなんて。
「せ、んぱ、あっ……」
先輩に手を引かれ、花火を見上げるひとたちとは逆方向へ向かう。公園の奥にある、木立。暗くて足元がよく見えない、ひとけのない場所に着くやいなや、抱きしめられ、さっきよりも深く、激しく口づけられた。零れた唾液をすくうように舐め回される。先輩はくすりと笑うと、「甘いね」と言った。さっき飲んだソーダのせいかもしれない。育海くんがくれたのとは違う、どこにでも売っている安っぽいソーダだったけれど。先輩と一緒だったら、何だって美味しいんだ。
「八尋、そこの木に手ついて。お尻こっち向けて」
「はい……」
耳元で囁かれて、ぞくぞくする。
浴衣を捲り上げられ、パンツを下ろされる。肌を湿った風が撫でる。すうすうして心許ない……と思った瞬間、先輩の大きな手に包まれる。
「んっ……あっ、せんぱ……っ」
やわやわと揉まれ、それだけで声が漏れてしまう。みっともないとはわかっていても、待ちきれずに、先輩の動きに合わせて自分から腰を振ってしまう。
「せんぱ、いっ……だめっ、も……っ」
「八尋」
ぐっ、と尻たぶを割りひらかれ、無防備になった穴の周りをなぞられる。
「ひゃあっ、先輩っ、もう……もう我慢できっ……」
前は痛いくらいに張り詰めて、浴衣を持ち上げてしまっている。
「先輩、じゃないでしょ。何て言うの」
「ひろ、と……ひろとぉ……」
周りをなぞっていた指が、その瞬間つぷん、と、ナカに入ってきた。それだけでも嬉しくて、ちょっとの刺激でも逃すまいと先輩の指を食い締めてしまう。待てができなくなった犬みたいだ。
先輩が指を抜き差しする。ちゅぽちゅぽと濡れた音が大きくなる。
「寛人……お願い、もう……早く、寛人の欲しい」
後ろに手を伸ばし、先輩のモノにふれようとした。けれどすんでのところでかわされて、入口に先端が押し当てられる。熱い。大きくて。自分のナカを隙間なく埋めてくれる先輩のモノが入ってくる。
「っ……八尋」
「ん、ああっ、は、いっ……寛人のっ……入ってくるっ……」
先輩の吐息が聞こえる。先輩も感じてくれている。それがたまらなく嬉しい。
蒸し暑さも、歓声も、花火の音も、ここが外だということも、万が一誰かに見られたらということも、何も気にならない。先輩とひとつになってる。つながってる。
「八尋、動いていい?」
こくこくとうなずく。早く、早くもっと、先輩と気持ちよくなりたい。溶けてしまいたい。
ぱん、と肌と肌とがぶつかる。自分の意思とは関係なく声が漏れる。突き上げるスピードが徐々に速くなる。
「ああっ……はぁ……ああんっ」
「気持ちいい?」
「んっ……あっ、やぁっ……んっ」
「気持ちいいなら、気持ちいいって言って」
「気持ち……いい……気持ちいい、れす……っ」
「どこが気持ちいい?」
「ひ、ろとのが、ナカでいっぱいで気持ちいい……んあっ、あっ、やっ、急に激しっ……」
「激しいの嫌い?」
またゆっくりと内壁をねぶるように抜き差しされて、思わず子どもみたいにぶんぶんと首を横に振った。
「もっとぉ……もっとして」
腰をぐっと引き寄せられるのと同時に、先輩の右手が胸の前へと滑ってくる。鳩尾、おへそ……そしてまた不意に上がって、右乳首をスッと撫でられた。
「ひゃあっ!」
「あれ。さわってもいないのにもうこんなになっちゃってるの。ちょっと掠っただけなのにすぐわかったよ。すごい、コリコリ。もしかして左もそうなってる?」
すると今度は、左の乳首をぎゅう、と摘まみ上げられた。
「ひあああっ!」
それだけで軽くイってしまった。
「すごい、今日は一段と敏感だね」
「だって……あっ、あんっ」
耳たぶを舐められ、乳首を弄られ、ナカのいいところを抉られ、もう立っているのがやっとだ。浴衣はすっかりはだけてしまって、帯はかろうじてほどけてはいないものの、その役割は果たしていない。今誰かに見つかったら、とてもカモフラージュなんてできやしない。
「あっ、あっ、寛人っ、気持ちいいっ、ああんっ」
「……っ、八尋、浴衣、捲り上げておいてくれる?」
「ん……」
先輩の意図がわからなかったけれど、促されるがままに浴衣の裾をつかんで、尻を丸出しにする。
「八尋っ……イくよ」
「あっ……ああっ」
先輩が射精したのがわかった。引き抜かれた途端、ぴちゃ、ぴちゃ、と、尻に感じるなまあたたかい感触。臀部の丸みを、先輩の精液が伝って落ちていくのがわかる。
「ふ……ごめん、八尋のお尻にかけちゃった」
「寛人……」
「ああ、浴衣はそのまま上げといて。よごれちゃうから。ちょっと待って。すぐに綺麗にするから」
言うなり先輩は跪くと、八尋の尻を舐め始めた。
「ひっ、先輩っ、何してるんですかっ、やめてくださいそんなっ」
「ああ、駄目だよ、動いたら。せっかくの浴衣がよごれちゃう。綺麗にしてあげるから、じっとしてて」
「綺麗に、って……あんっ」
尻に舌を這わせながら、するり、と先輩の手が前へと伸びてくる。
「ちょっと待ってください。そこはち、が……ああっ」
尻を舐められ、前を扱かれ、あられもない声が止まらない。木にしがみついて、絶頂した。先輩が、手に飛んだ精液を舐め取っている。
崩れ落ちそうになったところを、抱きかかえられる。
丁度その時、しだれ柳の星が、夜空に長く尾を引いていく様が見えた。
「あ、りんご飴」
何の気なしに呟いただけだったけれど。
「食べる?」
先輩に聞こえてしまっていた。返事をするより先に先輩は屋台の方に向かってしまう。その背中。浴衣姿の先輩にあらためてみとれてしまう。戻ってきた先輩の手には、真っ赤なりんご飴。
「有り難うございます」
りんご飴を囓りながら歩く。カンカンと下駄が鳴る。
あんなことをしたあとなのに、普通に夏祭りを楽しんでいる、というのが信じられない。まぁせっかく来たからには、楽しまないと損だけれど。
先輩は平然とした顔をして屋台を覗いている。今の先輩を誰が見たって、さっきまで外でセックスしていたとはとても思わないだろう。自分はどうだろう。身体は拭いたし、浴衣は先輩に直してもらった。それなのに何か、どこかから、他人に勘づかれてしまういやらしさが滲み出ているような気がしてならない。
パリン、と砕けた飴が地面に落ちた。食べ方が下手くそなせいで、りんごが落っこちてしまいそうになったとき……
「おっと」
手首を掴まれ引き寄せられた。今にも落ちそうだったりんごが、先輩の口に吸い込まれる。
「あ、ごめん。美味しそうだったから」
「い、いえ……」
残ったりんご飴をどうしようか。
しばらく棒を持ったままでいたけれど。
先輩が横を向いた瞬間を見計らって、そっと口に含んだ。