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夜が広がる[七夕]

執筆:八束さん

 

 

 

「あれやりたい」と、テレビに映った笹を指してヤヒロが言った。笹を用意するのは流石に無理だから、短冊を作ってやることにした。
 きれいな紙を見繕って切っていると、「織姫と彦星って年に一回しか会えないんだね」と、ヤヒロがぽつりと呟いた。
「そんなの耐えられない」
「どうかな」
「ヒロトは平気なの? 好きなひとと一年に一回しか会えないなんて」
「というか、一年に一回しか会えなかったらもう、好きでも何でもなくなってるんじゃないかな。心の距離と物理的な距離って、ある程度比例するでしょ」
 するとヤヒロは、眉をハの字にして、ぬいぐるみ(これもつい最近、ねだられて買ってしまった)に顔を埋めてしまった。
 とりあえず短冊を渡してやると、何度も消しては書き、消しては書きを繰り返している。
「書けた?」
 笹は無理だけどどこかに飾ってやろう。するとヤヒロは、憮然とした表情で差し出してきた。

『ヒロトとずっと一緒にいたい』

 表情と書いてる内容とが合っていなくて、思わず笑ってしまった。
「何で笑うの」
「ごめん。何ていうか……
「ヒロトはずっと一緒にいてくれないの」
 ヤヒロの視線を真正面から受け止めきれずに短冊に視線を落として、ふと、一旦は消された文字がうっすらと見えることに気づいた。

『ヒロトとずっと気持ちいいことがしたい』

「ヤヒロ、おいで」
 手招きすると、膨れっつらをしながらも、素直にやって来る。
 膝の上に乗せ、キスをする。あっという間に深いキスになった。
「んんっ……ヒロト……
 簡単にスイッチが入る。すぐに下半身をすりつけ始めた。
「ヒロト……
「ん?」
「もう、いい?」
 了解を与えると、待ちきれなかったという風にズボンごとパンツを脱ぎ捨て、抱きついてきた。
「もうこんなにしちゃったの」
「やぁ……
 軽く握ると、それだけでとろけた声を上げる。
「そこ、もっとさわって。好き……ヒロトにさわってもらうの、好き……っ」
「俺に? 勝手に腰、揺らしちゃってんじゃない」
「だって……
「ここに立って」
「どうして……あっ」
 膝立ちにさせ、可愛らしいペニスを咥えてやる。
「やっ、ヒロト……っ、あっ、ああっ」
 容赦なく髪を引っ張られたが、それすら愛おしいと感じてしまう自分はもう末期だ。ちょっと強く吸い上げただけで、ヤヒロはのけぞりながら、白い液体を吐き出した。
「う……ヒロト……ヒロトぉ……
 けれどまだ満足しきっていないのがわかる。当然だろう。彼のものをしゃぶりながら、中指の先を尻の穴に潜り込ませていた。欲しい? と今さらなことを訊くと、こくこくと素直にうなずく。
「じゃあヤヒロも俺の気持ちよくして?」
 優しく頬を撫でながら促すと、ためらいなくヒロトのものを咥えてくれる。
 ためらいが……なくなってしまったのは自分も同じだ、と自嘲する。
 初めは罪悪感で押し潰されそうだった。今はただ、彼をこんな風にした責任を取らなければならないと思っている。いや、それもまた綺麗事だ。認めてしまえ。もう彼を、放しがたくなっている。彼を愛せば愛すほど、愛す資格を失っていっているのはわかる。それでも止められない。一度抱いてしまったら最後、引き返す、なんて選択肢はその時点でもう失われてしまっていたのだ。
 プライバシー、なんて表向きだ。この様子もおそらく監視されている。ヤヒロだけじゃない。今頃になってようやく気づくなんて。自分も実験動物だったということに。
 だったらもういっそ、見せつけてやればいい。
「ずっと一緒にいて……ずっとこんなことをするの?」
 ヒロトのものを咥えたまま、ヤヒロは「うん」と首を縦に振る。
「うん、って……
「少なくともこうしている間はヒロト、どこにも行かないでしょ?」
 たまらず押し倒し、すでに熟れきっているところに挿入する。
「ああっ……ヒロトっ、好きっ、ヒロト、ヒロトと繋がってる……ヒロトでいっぱいになってるの、好き……っ!」
 ……君もじゃないか。
 苦笑しながら、頭を撫でる。
 身体を繋げれば、心も繋がっていると思っている。愛情の表し方にはいろいろあるだろうに、これこそが最大の愛情表現だと思っている。
 じゃあ自分はどうなんだろう。
「ヒロトも好き?」
 迷いを見透かしたようなタイミングだった。
「好きだよ」
 好き、と投げかけられたのをただ打ち返しただけのようにも思えて、言葉を重ねる。好きだよ、ヤヒロ、好き、君を好きにならない理由なんてない、ずっと一緒にいる……
 腰に脚を絡め、さらに密着してこようとする。一ミリの隙間も生まれないくらい。
「ヒロト、ちょうだいっ、いっぱいヒロトのおくにほしい……っ」
 たとえば遊び相手にこんなことを言われたら、見え見えのリップサービス、と思って冷めてしまう。けれどヤヒロに言われると、ああ……本当に注いでやらなくちゃ……と思う。彼を満たすことができるのは自分しかいない、と。
 錯覚する。
「イくっ、イっちゃう、そこ擦ったら駄目っ、イっちゃあ……っ」
「いいよ、ヤヒロ、イって」
「やだぁっ、僕ばっか……ヒロトもっ、ヒロトも一緒に……
「ヤヒロ、もしかして勘違いしてる? 一回イって終わりじゃないでしょ。大丈夫、一緒にイけるから。とりあえず一回ナカでイって? ヤヒロがイくとこ見せて」
「ヒロトっ、ああっ、ヒロトぉ……っ!」
 脚を抱え上げ、より深くを抉るようにする。こんなあられもない格好、ちょっと前まではとてもできなかったのに。
 イきっぱなしのナカを容赦なく責め立てる。ずっとずっと。そのままずっとイき続けて。もういっそ戻ってこられなくなればいい。
 ふと視線を落とすと、彼の腹の上は透明な液体でびしゃびしゃに塗れていた。それを下から上へ舐め取るようにして、また、何度目かわからないキスをする。
 どんなに強く抱いても。
 どんなに愛を確かめても。
 彼はいずれ、自分のもとから離れていく。
 一年に一回……いや、もしかしたらもう二度と、会えなくなったらそのとき自分はどうするのだろう。どうなるのだろう。
 ヤヒロの願いが書かれた短冊が、机の上からひらり、と落ちたのが見えた。