執筆:八束さん
「ヤヒロさん、見て、ほら、見て。ヤヒロさんと同じようにピアスあけたの。ちょっと痛かったけど、でもヤヒロさんとお揃いになれるなら、全然平気。似合ってる?」
「うん、イクミくんによく似合ってる」
「本当? ピアスつけてるとね、ヤヒロさんにずっとさわってもらってるみたいで幸せなの。それにこうやってね、ちょっとさわっただけで気持ちよくなっちゃう」
「いつもどうやってさわってるの?」
「やだ、恥ずかしいから」
「見せて。恥ずかしいことなんてないよ。何やったってイクミくんは可愛いよ」
「こうやってつまんだり、引っ張ったりするの……あっ」
「気持ちいい?」
「気持ちいい……ヤヒロさんとお揃いのピアスつけてもらった乳首気持ちいい」
「本当、気持ちよさそう。前もいじっていいよ」
「あっ……ヤヒロさん、ヤヒロさん……っ。気持ちいい。気持ちいいよぉ……ヤヒロさんに見られながらするの気持ちいい」
「そう。じゃあもっと気持ちいいところいじってみて。イクミくんが満足するまで、ずっと見ててあげるから」
「本当?」
「うん、本当」
「どこにも行ったりしない?」
「うん」
「僕のこと、一番に考えてくれる? 傍にいてくれる? どんなときも? 慰めてくれる? ひとりにしない?」
「うん、イクミくんのことは一番大事。イクミくんを苦しめるどんなものからも守ってあげる」
「ナオトからも?」
「うん」
「ナオトの兄さんの尚登からも?」
「うん」
「ツバサとかミナミとか、他の、ヤヒロさんにべたべたする生徒たちよりも僕のことが大事?」
「うん」
「教授よりも?」
「うん」
「ヒロト……よりも? ヒロトよりも僕を選んでくれる?」
「選ぶよ。イクミくんのことを、一番」
「ヤヒロさん……」
「そんなに震えて……もうイきそうだね。いいよ、イって。イクミくんが可愛くイくとこ、見せて?」
「イく……ああっ……気持ちいい……ヤヒロさん、見てて、イく……イっちゃう……!」
「イくときは何て言うんだっけ」
「……好き」
「うん、そうだね。俺も好きだよ。好きって言葉にしたら、もっと気持ちよくなれるよね」
「好き。ヤヒロさん……好き、好き、好き、大好き……!」
白い液体を吐き出したのに。
視界は真っ黒になっていく。
好き、好き、好き……
こんなに叫んでいるのに。ヤヒロさんの姿は闇の中に消えていく。手を伸ばす。伸ばした先に、ぼうっと浮かび上がるものがある。誰かの背中が見える。
「ヤヒロさん……っ!」
その人物がくるりと振り返った。ヤヒロさん……じゃない、尚登。
何だこいつ、まだいたのか。
というか、いつまでいるつもりなんだろう。分からない。
かまわれたくなかったので、背を向ける形でうずくまった。
ここには、ヤヒロさんはいない。
ヤヒロさんはまだ一度も、この部屋を訪れてくれたことはない。
分かっていた。
たぶんこれから先も、ヤヒロさんが自分のところに来てくれることはない。
いつだって会いに行くのは自分の方。ヤヒロさんから求めてくれることなんてない。それでもいい。だったら何度でも会いに行く。会いに行けるんだ。このお薬があれば、いつだって大好きなヤヒロさんに会える。自分だけのヤヒロさんに会える。
ポケットから小瓶を取り出す。手が震えてなかなか上手くいかない。ようやく取り出した錠剤を口に入れる。甘い甘いお菓子のようなそれを、奥歯でかみ砕く。