コンテストで受賞させていただいた作品の書評です。
2024/9
エブリスタ様×小説大賞2023 集英社 少女・女性向けコミック全レーベル合同マンガ原作賞 の最終候補に選んでいただきました。
以下エブリスタ編集部様からの章典である選評です。
【先輩にそのBL小説はまだ早いと思います。】
テーマ:A
共感度:A
キャラクター・設定:B
ストーリー:B
表現技術・文章能力:B
総合評価:A
「エブリスタ編集部選評」
最初のうちは主人公の紅本がリアルを題材に書いた作中小説と気付かせない構成で読者の意表を突いており、その後明らかになる彼の願望と実際の人間関係とのギャップが本作の大きな見所になっています。
小説では素直な後輩の未早が本当は生意気という差が面白く、現実で同じように恋人になっても全く違う二人の掛け合いは新鮮な気持ちで楽しむことができ、読み比べをするかのような味わいがありました。
ただ、二人の恋路自体にはそれほど起伏が感じられず、やや盛り上がりに欠ける印象がありました。恋敵を登場させるなど、障害を作ってドラマ性を高めてみるのも良いかもしれません。
エブリスタ様主催「ほっこり/ゆるいホラーコンテスト」佳作受賞作品
【時時】
(総評)
冒頭、神社の階段で対面する胡内と耶神。孤独な魂をもつ者同士の邂逅。手探りでコミュニケーションをとる様子がよく描けています。毎晩、深夜零時に会うシチュエーションや、秘密や影の部分を抱いているキャラ。読者にほっこりした交流を見せつつ、彼らが得体のしれない相手という緊張感をキープしています。とくに耶神の心情描写に臨場感があって惹きこまれました。やがて判明する両者の正体にも驚かされます。
(キャラクター)
胡内と耶神の関係性が繊細で、臨場感がありました。やりとりをもっと見ていたいと思わせる魅力的なキャラクターを造形できています。なので、さらに精度を上げてもいいかもしれません。たとえば、胡内が干し柿を持参して、耶神にふるまう場面があります。でも、地元で生活しているのは耶神で、胡内は“観光客”なので、少し違和感を覚えました。ふつうは、地元民が「これ、名産なんです」ともてなすほうが自然な感じがします。そこで、前の場面で耶神が「このへんは干し柿が有名ですよ」と紹介していれば、胡内が買ってくる手もあるかと思います。
(内容・構成)
総評でも述べましたが、冒頭の出会いからの流れが素晴らしいです。文章も非常に読みやすかったです。ただエンディングに関しては、もう少し短めでもいいかなと感じました。胡内と耶神の正体に関しては読者に明かされています。なので、朝になったら宿代を置いていなくなっていたで締めたほうが余韻が残る気がします。
fujossy様主催オフィスラブコンテスト優秀賞作品
【明かさないこと】
冒頭から語り口調で始まり、そのまま話が始まったところに作者のセンスを感じました。伏線がところどころに散りばめられていて、読めば読むほど謎を呼ぶ…「BL小説」の枠組みを超えた、ハイクオリティな作品です。
比喩を使っているシーンでは、矢千の想像の世界と現実が交錯し、とても不思議な印象を残しています。
一旦話を終わらせ、今度は逆の髙科サイドの視点で物語が始まる…そこから次第に彼らの過去が明かされていく手法は素晴らしかったです。そして髙科が矢千の記憶を無理やり思い出させようとはせず、再び想いがつながることを祈り、自分との絆を証明しようとしている姿に心を打たれました。
最後までこの物語を読んだ者だけに伝わる、非常に感動する秀作です。決して甘くないストーリーのため、読み手を選ぶ作品ですが、未読の方はぜひ読んでいただきたいです。そして読了後、また冒頭から読み直すと新しい発見と感情が生まれるはず…。
エブリスタ様主催「いびつ/奇妙/不思議な恋コンテスト」準大賞作品
(総評)
タイトルをはじめとする言葉選びのセンスがとても良いと感じました。また、「ファンタジー要素を含んだBL作品」というと一見間口を狭めがちなのですが、フラットな文体も含めて、幅広い読者にも好かれそうな作品だと思いました。
一方で、同性愛者の思考として描かれている「倫理観」「勘違い」「心配」が、やや古めかしい印象も受けました。家族を持つこと、子どもを持つこと、世間からの印象も、少し前まではそのことに罪悪感を持つキャラクターというのが多かったのですが、ここ数年はLGBTQをとりまく環境が大きく変化してきた印象があります。主人公を否定するものではなく、「同性愛者は〇〇なので~」という大きなくくりでの表記は避けたほうが良いかもしれません。
(ストーリー)
おぼろげな記憶の“彼”と、タイトルにもなっていて具体的な指定である十時十分という時間、十字路という場所との対比がうまく使えている作品でした。
また、エンディングでの一貫して「十」というテーマを回収できていたので、タイトルを含め忘れがたい印象的な作品に仕上がっています。
登場人物が全体的に大人びた印象なので、もう少し差別化を図ってもいいかもしれません。極端な対比例としての「一般の人」を混ぜ込むことで、主要キャラクターの印象が強まることもあります。
(演出)
地の文において、体言止めを使ってリズム感を出そうとしているのがわかります。とても効果的に働いているページもありますが、やや多用気味な印象も。印象的な体言止めのフレーズ→そのあとに補足するように事実と感情を記載→また印象的なフレーズ…というのが繰り返されてしまっている箇所があるので、せっかくの効果が薄れてしまっているようにも思いました。
どうしても印象づけたいフレーズは、たとえば章ごとに1箇所山場を定めて使用し、それ以外の部分をシンプルに推敲していく…などの方法もあるかと思います。文章的に近い箇所に、似たような技法が使われすぎていないかも、推敲時に確認してみてください。