執筆:八束さん
「あんっ……」
自分で自分の乳首をいじってみる。むずむずするけれど、快感かどうかは分からない。ぎゅう、と引っ張ってみる。痛い。ずっとやってると気持ちよくなってくるんだろうか。教授に乳首を弄ばれていた、ヤヒロさんの姿が脳裏に焼きついている。
ヤヒロさんと同じようにしてほしい。
ふと思い立って、ヤヒロさんのデスクに向かう。文房具を置いてある場所に、クリップを見つけた。パーカーをめくっておそるおそる、右の乳首に挟んでみる。
「ひっ……」
思いきり挟んでしまったせいで、容赦ない痛みが襲いかかる。耐えきれずに、一旦はずしてしまう。痛い。クリップでこんなに痛いなら、あのときのヤヒロさんの痛みはどれほどだっただろう。
思い直し、もう一度挟んでみる。さっきよりは少し慣れてきた。左も同じようにする。慣れた、と、思ったけれど、軽く揺らしただけでまた、飛び上がってしまいそうなほどの痛み。とても鎖につないで引っ張るなんて真似はできそうにない。
じんじんと痛みが広がる。ただのクリップだけど、そうだ、ヤヒロさんが使っていたものだ、と思うと、さっきまでとは違う感覚が込み上げてきた。ヤヒロさんにつまんでもらっている、と思ったら……
「あっ、あっ……」
ずくん、と腰が重くなる。
「ヤヒロさん、ヤヒロさん、ヤヒロ……」
ヤヒロさんの名前を呼ぶと、それだけで快感が膨れあがることに気づく。クリップを思いきり引っ張った、そのとき……
「またしようもないことをして」
ヤヒロさんが戻ってきた。
「ごっ、ごめんなさい、ヤヒロさん……」
胸に視線をやりながら、ヤヒロさんがふっ、と笑った気がした。冷静に考えると自分はマヌケ極まりない格好をしている。
「何でこんなことしたの」
「ヤヒロさんと同じになりたかったから」
クリップに伸びるヤヒロさんの手が一瞬止まった。
「お揃いのピアスが欲しくて……。僕もヤヒロさんと同じようにして?」
はあ、と大きくため息をついたあと、ヤヒロさんがクリップをはずす。不思議と、さわっているときよりも解放されたときの方がより強い刺激を感じて、さらに前を硬くしてしまう。
「座って。前はたくし上げたままにしてて」
向かい合わせの形で丸椅子に腰掛ける。
見られている。さっきまで弄んでいたところをヤヒロさんに全部見られている。ちょっと赤くなったところも。クリップに挟まれて歪んだところも。それを意識するだけで、太ももがびくびく震え出す。
「またお仕置きしないといけないのかな。わがままばかり言う子には」
お仕置き。
そのひとことで、とうとう前が濡れ始めた。ヤヒロさんにされることを想像しただけで、簡単にイってしまいそう。いつから自分はこんな、だらだら涎を零す犬みたいになってしまったのだろう。
して。お仕置き。ヤヒロさんにされることなら何だって……
「いや、どちらかと言うと必要なのは『治療』か」
ヤヒロさんは顔色ひとつ変えず、何をするのかと思ったら、絆創膏を取り出した。
左右の乳首に、絆創膏が貼り付けられる。
「いいよ、シャツ下ろして」
「えっ……」
ヤヒロさんはくるりと背を向けてしまう。しかたがないからすごすごと、たくし上げていたシャツを元に戻す。さっきまで見られて恥ずかしかったのに、もう見てもらえないのかと思うと寂しくてたまらない。
「いいって言うまで勝手に剥がさないように。馬鹿なことをしてないで、今日はもう早く寝なさい」
「……はい」
往生際悪くしばらく粘ってみたけれど、ヤヒロさんが振り向いてくれる気配がなかったので、あきらめてひとりでベッドに戻る。
寝返りを打つたび、絆創膏が引っ張られて変な感じ。
ためしにそっとふれてみる。直接ふれられなくてもどかしい。でも、さっきとは違う感覚が、だんだんクセになり始める。
「んっ、んっ……」
駄目だ。早く寝ないと。お仕置き、どころじゃない、本格的にヤヒロさんを怒らせてしまう。それなのに、乳首を弄る手が止まらない。両方の乳首を人差し指で一気にカリカリすると、電流のように快感が走る。
ああ……絆創膏をはずしたい。はずして思いっきりつまみあげたい。もうかなり絆創膏には皺が寄ってしまっているけれど……
「やっ……あっ、おかし、くなるっ……やだぁ……」
ヤヒロさんは『治療』だなんて言ったけれど……違う。これもやっぱり、お仕置きじゃないか。
こうなってようやく、ヤヒロさんのもくろみが分かった。
「やあっ……あっ、あ……!」
早くズボンを下ろさないといけないのは分かっている。でもその一瞬すら惜しくて、乳首をずっと弄り続けていたい。
「あああっ!」
腰を浮かせた瞬間、パンツの中がべとべとになる。
どうしよう。
どうしよう、どうしよう。
乳首から指が離れない、どうしよう。
一晩中ずっと、このままだったらどうしよう。
ずっと弄り続けていたら、ヤヒロさんと『お揃い』になれるかな。
夜が明けたらヤヒロさんは、一体どんな目で見下ろしてくれるのだろう。