執筆:八束さん
ヤヒロさんが教授のところに行くのが分かったので、こっそりあとをつけた。
ドアの隙間から中の様子を覗き見る。
「こんな時間に診察してくださるなんて。教授は本当に仕事熱心ですね」
「仕事熱心なのは君の方だろう。こんな時間じゃないと都合がつかないなんて」
向かい合って座ったヤヒロさんがシャツの前をはだける。
「これは意外だな。まさか君が大人しくつけたままでいるとは思わなかった」
ヤヒロさんの乳首につけられたピアスに目を落として、教授が微かに笑う。
「はずすのが面倒だっただけです」
「そう? こっちはずいぶん可愛がられているみたいだけど」
教授が左の乳首にふれて、どきりとする。バレないようにやっていたつもりだったけれど……
「大変なんですよ。聞き分けのない子どもの面倒を見るのは。寝ているところに忍びこんでくるのだけは本当、やめてもらいたい。一度キツくお仕置きしたんですけど、まったく聞きやしない。だから最近はもう、好きにしたらいいと」
「自分の子どもの頃を重ね合わせた?」
「僕はあんなに大胆じゃありませんでしたよ」
「しかしこれを見てると妬けてくるな」
「心にもないことを」
横になりなさい、と、診察台を指して教授が言う。ヤヒロさんは操り人形のように、意思を感じさせない動きで服を脱いでいく。
一糸纏わぬ姿になったヤヒロさんは、何度見てもきれいで、胸が苦しくなる。
横になったヤヒロさんの胸に、教授が手を伸ばす。何をするのかと見ていたら、今まで嵌まっていたバーベル型のピアスをはずし、リング型のピアスにつけ替えてしまった。そして左右のリングを鎖でつないだかと思うと、つないだそれを、教授は上に向かって一気に引っ張り上げた。
「っ……!」
眉間に皺を寄せてヤヒロさんが呻く。背中が弓なりに反り返る。ヤヒロさんは痛がっているのに、そのさまを美しいと思ってしまっている。
くいっ、くいっ、と教授は気まぐれに鎖を引っ張る。引っ張られるたびに、ヤヒロさんの腰がびくびく揺れる。ヤヒロさんの中心は角度をつけ始めていて、透明な汁がつうっ、と、伝ったのが見えた。
「これだけでイけそうだな。イってごらん?」
しかしそれ以上教授は鎖を引っ張ることをせず、代わりにヤヒロさんの口に鎖を咥えさせた。
「んっ……んんーっ……」
ヤヒロさんが顎を上げると、乳首が今にもちぎれそうに引っ張られる。
「ふっ、うっ……」
「イくまで放したら駄目だよ。ああもちろん、手を使っても駄目」
ヤヒロさんの荒い息遣いと、鎖のじゃらじゃらいう音が響く。
こんないやらしい光景、今まで見たことがない。
鎖に伝う唾液。
「それだけじゃ難しいかな」
そう言うと教授は小瓶をあけ、錠剤を取り出すと、
「これが欲しい? ああでも、君の口は塞がっているんだった。じゃあこっちから飲むしかないね」
股をひらかせ、アナルに錠剤を押し込んだ。
教授の指を咥えたまま、声にならない声を上げてヤヒロさんが跳ねる。
標本にされる蝶みたいだ、と、思う。ピンを刺されて、鱗粉をまき散らしながら暴れるみたいな。
食い入るように見つめてしまう。ヤヒロさんが息を荒げるのにつられて、自分の息も荒くなる。駄目だと思えば思うほど、前が張りつめていく。
時間の感覚が分からなくなっていく。もうどれくらい経っただろう。遠目で見ても、ヤヒロさんの乳首が赤く腫れ上がっているのが分かる。こっそり、宝物を愛でるみたいに、自分だけのものだったはずのそれをあっという間に歪められて悔しく思う反面、でもそれを美しいと思ってしまう。ヤヒロさんには、傷が似合う。
「うっ……んっ……んんっ……」
「言いつけを守って、えらいね」
汗に濡れて額に貼りついた前髪を、教授がそっと梳く。髪を、頬を、優しく撫でていた手が、次の瞬間、残酷な刑具になる。ぐいっ、と額を押しやり、限界まで顎を上げさせる。
「んんんーっ!」
乳首を醜く歪ませながら、ヤヒロさんが絶頂した。
絶頂してしばらくしても、ヤヒロさんは鎖を咥えたまま放さなかった。
ヤヒロさんの口に教授が指を入れ、鎖を吐き出させる。
「鎖をはずすもはずさないも君の自由だけど」
呪いの文字でも刻みつけるように、ヤヒロさんの白い胸の上で、教授が鎖を遊ばせる。
「お散歩するときは、君の大好きな飼い主に引いてもらいなさい」