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夜這⑴

執筆:八束さん



 生徒たちの診察を終えたヤヒロさんが、医務室の簡易ベッドで仮眠している。そっと忍び寄って、白衣をはだける。シャツのボタンを下から順にはずしていく。ボタンに当たった指先が震える。どきどきする。ヤヒロさんが急に目を覚ましてしまったらどうしよう。いや、大丈夫だ。教授に貰った睡眠薬を、ヤヒロさんが飲んでいたペットボトルの水の中にこっそり混ぜた。
 ヤヒロさんの白い肌が露わになる。白い肌によく映える、赤い突起……を彩る、シルバーのピアス。それがまだそこにあることに、ほっとする。
 人差し指でピアスにふれ、そのまま指を滑らせ、乳首の先端にふれる。ちょっと力を入れ、くにくにと押し込むようにする。右に左に、先端が揺れる。そうしていると、少し勃ち上がってきた。乳輪ごと摘まみ上げ、またくにくにと、親指と人差し指とを擦り合わせるようにする。可愛い、ヤヒロさんの乳首。愛撫にちゃんと応えてくれて、ヤヒロさんの乳首は素直だ。右と左、交互に可愛がりながら、でもやっぱり、自分が穴をあけた左の方を集中的に可愛がってしまう。
 食べてくれ、とばかりに熟れきったそれ。
 指で弄っているだけじゃ物足りなくて、顔を近づけ、舌を伸ばす。初めはおそるおそる。ちょん、と、舌先をつけるだけ。でもだんだん大胆に、舌でこね回していく。唾液で濡れた乳首がてらてらと光る。ちゅぱちゅぱ音を立てて吸っていると、こんな卑猥な行為をしているのに、赤ん坊に戻ったような気がしてくる。いっそそうなれたらいいのに。赤ちゃんになりたい。ずっとヤヒロさんの胸の中にいたい。
 勢いあまって歯を立てそうになり、すんでのところで思いとどまる。
 美味しい。ヤヒロさんの乳首。ずっと舌の上で転がしていたい。
 硬く尖った乳首。自分が育てた成果を確かめるようにうっとり見下ろす。そしてふと思い立ち、自分のシャツをめくり上げる。
 自分の乳首もヤヒロさんと同じようにしてほしい。ヤヒロさんにピアスをあけてもらったらきっとそれだけでイってしまう。それでヤヒロさんとお揃いのピアスをつけてほしい。
 両手でくにくに弄って、ヤヒロさんと同じように勃たせる。正直、乳首の気持ちよさはまだあまりよく分からない。ずっと弄っていたら感じられるようになるんだろうか。
 ふと思いついたことを実行に移そうかどうか迷い、でも結局誘惑には勝てなかった。
 おそるおそる自分の胸を、ヤヒロさんの胸に近づけていく。
「んっ……
 心臓が飛び立しそうなほど、ばくばくいってる。ヤヒロさんに伝わってしまうかもしれない。
 ヤヒロさんの乳首の先端と、自分の乳首の先端とがふれる。その瞬間、ピリッと電流が走ったみたいで、思わず声が漏れた。ちょっと距離を取ると、互いの乳首の間に唾液の糸がかかっているのが見えた。
「ふうっ……ううんっ……んあっ……
 擦り合わせるのをやめられない。キスしてる。ヤヒロさんの乳首と自分の乳首とがキスしてる。
 刺激で、というより、その絵面のいやらしさに、下半身がカッと燃えたぎる。自分が今どんな格好をしているか、なんて、考えるのも恐ろしい。獣、より醜悪な格好をしている。
「ふあっ……んんっ……ヤヒロさんっ……ヤヒロさんヤヒロさんっ……
 ズボンの前をくつろげ、露出させた性器をヤヒロさんの腹に擦りつける。
「ごめんなさいヤヒロさん、へんたいでごめんなさいっ……でも止、まんないっ……ヤヒロさんよごしちゃう……よごしちゃうよおっ……!」
 ぴゅくぴゅくと白い液体が、ヤヒロさんの肌の上に散る。白い精液よりヤヒロさんの肌は白くて、やっぱりよごれているのは自分の方だと思い知らされる。
「はぁ……はぁ……っ、よ、ごしちゃった。ごめんなさい。き、れいにする、から……
 ヤヒロさんの肌に舌を這わせる。自分の精液なんて美味しくとも何ともないけれど、ヤヒロさんの肌に零れたもの、と思えば、ちょっとは尊く感じられる。
「ごめんなさい、ヤヒロさん、こんな、どうしようもないへんたいでごめんなさい。お仕置きして。僕はいけない子だから。お仕置きして……
 呟きながらヤヒロさんの胸に顔を埋めようとした瞬間、
「うあっ」
 後ろの髪をいきなり掴まれ、引き離された。
 ヤヒロさんと目が合う。
 ヤヒロさん、起きていた? 一体いつから?
 問いかけようにも、引っ張られた髪が痛くて声が出せない。
「そうだね。俺もそろそろ、君を躾けないといけないと思っていた」

 

 


「やだっ……ヤヒロさん、嫌だこんなの嫌だっ!」
 力任せに押し倒されている。でもヤヒロさんに、じゃない。上に乗っかっている少年は、「トナミ、トナミ……」と繰り返しながら、イクミの身体をまさぐってくる。かかる息が、てのひらの熱が、汗が、何もかもが気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い。ヤヒロさん以外のすべての人間が気持ち悪い。どうして。どうしてこんなことされなきゃならないの。せっかくヤヒロさんにふれてきれいになったところも、全部、全部、よごされていく。
「嫌だっ……嫌だあっ!」
 力の限り暴れたけれども、びくともしない。
『トナミ』という少女の幻覚を見ているらしい彼は、イクミのことを『トナミ』だと思いこんだまま、強引にコトを進めようとしてくる。
「トナミちゃん……ああ、やっとふれられた」
「くそっ……俺はトナミなんかじゃないっての! 目を覚ませったら!」
「ああ、そんなに怖がらないで。悪い大人によごされたところは、俺が全部きれいにしてあげるから」
「嫌っ……嫌あああっ!」
 強引に服を剥ぎ取られるや否や、きたならしい肉棒を突っ込まれた。
「ひいっ……あっ……ああっ」
 全身に鳥肌が立つ。嫌だ。嫌だ。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
 イクミの中で、軟体動物みたいにうねるそれ。気持ち悪い液体を吐き出して、中からぐちゃぐちゃによごそうとしてくる。
「ああ、気持ちいいよ、トナミちゃん。トナミちゃんも気持ちいいよね? だってこんなにきゅうきゅう締めつけてくるんだから。受け入れてくれてるんだ。俺のこと」
「はあっ? 何勝手なこと言っ……あああっ!」
 ちょっとでも腰を引こうとすると、掴まれて、ぐっ、と一番奥まで押し込まれる。中はもう完璧に、よごされつくしてしまった。
 こんなひどい目に遭わされているというのに、ヤヒロさんはパソコンに向かったまま、こちらを見ようともしてくれない。
「ヤヒロさん……ヤヒロさんヤヒロさんヤヒロさんっ!」
 呼び続けてようやく、ヤヒロさんが腰を上げる。しかし何故か手にはペットボトルを持って。
 それ駄目、というより先に、ヤヒロさんがペットボトルに口をつける。ごくん、と飲み干す。その喉の動きに思わず見とれていると、ヤヒロさんと目が合った。
「ああ、そうそう、君が教授から渡されていた薬、あれ、ただのビタミン剤だから」
「えっ」
「でもビタミン剤でも、こういう使い方をすれば麻薬に変えられる」
 そう言うとヤヒロさんは「ミナミくん」と幻覚を見ている少年の名前を呼び、彼の顎に手を添えた。
「思う存分、君の夢を叶えたらいいよ」
 そうして口移しで水を少年に飲ませる。少年の喉が鳴って、飲みきれなかった水が顎を伝って落ちる。その瞬間、自分の目からも涙が零れた。
 何で。
 何でこんな目に遭わなきゃなんないの。確かに悪いことをしたのは自分だけど。それにしたってひどすぎる。
 抜かないまま、もう何回出されたか分からない。
 すると唐突に、少年が動きを止めた。さっきまでとは違う、いや、真逆の、きたならしいものを見るような目つき。
「何でそんなものついてるの」
「え……うわっ」
 容赦ない力でちんこを握られる。潰されるんじゃないかと冷や汗が流れる。
「駄目、駄目だよ、トナミちゃんにこんなもの似合わないよ。トナミちゃんにこんなものいらない」
「いらないなら取っちゃえばいいんだよ」
 そう囁くとヤヒロさんは、少年の手に鋏を握らせた。
「う、そ……嘘っ、何っ、冗談……冗談だよね。ねえっ、やめて、やだっ……!」
「そうだ。先生の言うとおりだ。いらないなら、取っちゃえばいい」
 敏感な部分に刃がふれる。あと少し。ほんの少し力を入れられたら、切れてしまう。いや、こんな鋏程度で、完全に切ることなんてできやしない。でも、それでも、タダじゃすまないのは分かる。
 ヤヒロさんは眉ひとつ動かさない。
「やだっ、やだやだやだっ! ごめっ……ごめんなさい! もう悪いことしないから! ヤヒロさんの言うこと何でも聞くから! 変なことしないから! 他にどんなお仕置きされてもいいから! だからやめて、それだけは、お願いっ、お願いやめて、やめてえっ、あっ、あああああっ!」
 ばちゃばちゃばちゃ、と水音。
 股の間が濡れていく。
 漏らした。
 漏らしてしまった。
「ひっく……うっ、うう……っ」
 ベッドの上だけじゃおさまらず、床までびしょびしょによごしてしまう。最後の一滴が零れる瞬間まで、見られてしまった。
 ぴちゃん、ぴちゃん、と、床に跳ねる音が、大きく響く。
「もういいよ、有り難う」
 ヤヒロさんが少年に囁く。少年は素直にヤヒロさんに鋏を渡すと、魂を抜かれた人形みたいな足取りで、医務室の外に出て行った。
「うっ……ふっ……
 惨めでどうしようもない。こんな恥ずかしい姿、いつまでもさらしていたくない。でも起き上がることができない。死にたい。もう死んじゃいたい。
「イクミくん」
 でも、ヤヒロさんに名前を呼んでもらうと、それだけで満たされてしまう。ヤヒロさんが見てくれている。それだけで。
「自分でよごしたものは自分できれいにしないとね」
「は、い……
「ああでも拭くものがないな。じゃあこれ、あげるから好きにして」
 そう言うとヤヒロさんは、着ていた白衣を脱いで、まるできたならしいものを視界から隠すように、イクミの腹の上に掛けた。
「ヤ、ヒロさん……
「戻ってくるまでにきれいになってなかったら、またお仕置きするからね」
「う……
 バタン、とドアの音。
 嫌だ。ヤヒロさん。ひとりにしないで。
 きれいに。きれいにしないとお仕置きされちゃう。起き上がらないと。早く。でも力が入らない。何もできない。
 ヤヒロさんの白衣を、胸元までたくしあげ、顔をうずめる。ヤヒロさんのにおい。幸せ。ヤヒロさんに包まれて幸せ。


 お仕置きされてもいい。


 もう何もしたくない。何も考えられない。
 白衣を抱きしめ、ヤヒロさんのにおいを胸いっぱいに吸い込む。