執筆:七賀
変化は目に見える段階に達した。
七月一日…
ナオトの意識が分裂していることは著明。何度改竄しても同じことから、実験内容自体見直す必要がある。
弟達が仲良くなってほしい、と思ってしたことだったが、果たしてこれは正解だったのか。この実験を提案した教授にも、今一度意見を聞くことにする。
八月二十六日…
今日は新たに三人、子ども達を島に送り届けた。逆に明日は二人、成人を迎えた子どもを、部下二人と迎えに行く。彼らも今頃自分のように、未知の世界を想像しているのかもしれない。
成長できる子どもは幸せだと思う。成長することすら拒んだ弟よりは、ずっと。
九月八日…
弟が(正確にはナオが)、ヤヒロさんに懐いて仕方ない。極力近付かないよう言い付けてはいるが、言うことを聞く気はないだろう。見張ってくれる存在が欲しい……そういえば最近、知らない少年と一緒にいるところをよく見かける。とうとう友人ができたのだろうか。名前は……確か、育海と言っていた。笑顔が可愛らしく、礼儀正しい子だった。
十月二十一日…
ヤヒロさんは相変わらず、意味のない誘いは断る。意味……なんていつもないけど、強いて言うならどれだけやる気があるか、だ。ある程度強引に押すと、諦めたように身を預ける。知らない傷は日に日に増えていく。
そういえば先日、彼が教授といるところを見かけた。妙に距離が近いように感じた。
十一月三日…
教授から、「ヒロト」さんが退院したら教えてほしいと言われた。理由は訊いても教えてもらえなかった。どうやらヤヒロさんを扱う為に必要らしい。
目的は分からないが、保険は用意しておいた方がいい。上手くいけば教授もヤヒロさんも掌握できる。自分がヒロトさんを手に入れよう。
十一月十三日…
転院の手続きは済んだ。見舞いに行った者がヒロトさんの様子を教えてくれた。経過は良好、ひとりで問題なく動けているらしい。ヤヒロさんも彼の退院日を気にしているようだ。だが、転院することは伝えてない。部下に頼み、当日の計画について伝えることにする。
十二月二十三日…
ヒロトさんの転院日。教授には退院してから行方を見失った、と伝えてある。
部下が彼を迎えに行った。彼は午後、この部屋に来る。