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2019.12.24〔5と6〕

こちらは八束さんが執筆してくださっている【7と8】の青春番外編…から影響を受けた私が書き殴ったSSになります。

登場するのは懐かしアイドル「5と6」の彼ら。仕事でお疲れの八束さんを応援する目的で書きましたが凄まじい迷走っぷりです。いつも本当にすいません、そしてありがとうございます!


 

5と6(クリスマス)

 

 


クリスマスと聞いてうげーって思うのは、恐らくグループの中で自分だけだ。他のメンバーはクリスマスライブやテレビ出演の話題で盛り上がっている。毎年、この時期、悠吾だけが正体不明の憂鬱と格闘している。
クリスマスは劇薬だ。ただでさえ煌びやかな芸能界に目が痛いほどのハイライトを入れたようなイベントだ。
大体日本人に関係ないだろ、お前らクリスマス当日に一度だってイエスのことを思い浮かべたことあんのか?
厳冬。雪が降ってもおかしくない……いや、むしろこんな寒いなら形だけでも降って雰囲気出しとけ、という夜空の下で身震いした。
こんなクソ寒い日に呼び出しといて二十分も現れない。メッセージを送っても既読にならないとか絶対ナメてる。いやー、さすがセンター様は構え方が違うな。来年はソロライブでもやるんですか。どうぞお好きに、そのままグループ卒業しろ。……という脳内テロップが流れた時、後頭部に軽い衝撃が走った。
「いってぇ! 誰だよ!」
って、絶対ひとりしかいない。
「何か俺の悪口言ってた?」
六夏だ。ペットボトル片手に、恐ろしいほどの真顔で背後に立っている。慌てて向き直った。
「え、声に出てた? おかしーな、完璧ナレーションだったと思うんだけど」
「意味わからん。まぁいいや、寒いから行こうぜ」
袖を掴まれ足早に移動する。事務所からほど近い臨海公園。美しい夜景が望めるここは、クリスマスもカップルが疎らに立っている。何もこんな寒い日に潮風に当たりに来なくたっていいのに……と皮肉ってみるけど、脳みそをオーナメントで装飾されてる彼らはどこに行っても聖夜を楽しめるのだろう。大変幸せなことだ。
一方自分は……早朝からイベントで身体を酷使し、ろくな休憩もとれずに日付けが変わる頃まで走り回った。ようやく解放されたと思ったらこの我儘姫に捕まるという悲運。正直もう、体も心もボロボロ。
高台から見える大橋は綺麗で見惚れるけど、六夏は特に興味がなさそうだ。ホットミルクティーが入ったペットボトルの先端を俺の頬にぐりぐり押し付けてきやがる。
「飲んでいいよ」
「どーも」
何だ、何でここに来たんだ。目的を言え、目的を……
警戒しながらミルクティーを飲む。と同時に、まさかこの中に何か混入してるんじゃ、と冷や汗が流れた。しかしあらぬ妄想だ。思い直して手すりに寄りかかった。あとコレ、とてもナチュラルな関節キス。
六夏は夜空を仰いで大きなため息をついた。彼が生み出した、とても小さい雲が闇に霧散する。
「やっとクリスマスが終わった」
「そーだな」
「やっと二人きりになれた」
キャップを閉じようとしていた指が止まる。
……今何て言った、こいつ。クリスマスだから舞い上がってんのか? いやいやでも、そういうのに一番乗らないタイプだよな。俺以上に冷めてるもん。オホーツク海みたいな心してるのに……
できるだけ冷静に処理しようとしたけど、真剣な瞳で見据えられて言葉を失う。そんなに俺といたかったのか。うわ……びっくり。録音しておけば良かった。
「なんだよ! それならそうと早く言えよな。つうかどうせならホテルの部屋とっておけよ。何もこんな寒い時に外で」
会うなんて。と言うことはできなかった。それより先に、噛みつくような強引さで六夏に口を塞がれてしまったから。
僅かに空いた口端からふぅふぅと息がもれる。まともに息できない動物みたいに必死ですがりつく彼を支えた。何か発情期の犬みたいと頭の隅で考える。
六夏の頭に手を添える。遠くには眩い七色を散りばめる夜景が見えた。いかにもクリスマスっぽいシチュエーションなのに、何故かそれと自分達が結びつかない。現実味がない。
あ! そうか。このサプライズがプレゼントなのか!
ようやく合点がいってコクコク首を頷かせていると、横っ面に強い一撃をお見舞いされて意識を失いそうになった。
「いい加減にしろ! 心の声がダダ漏れなんだよ、お前は!」
「いたた……また声に出てた……?」
全然気付かなかった。ていうか朝から休みなしで疲れてるんだよ。半泣きで頬を押さえていると、六夏は怒りながらスマホをよこせと言ってきた。またよからぬ事をしそうな予感がしたけど、クリスマスだから()素直に手渡す。彼はポケットから取り出した袋をビリビリ破いて、俺のスマホに何か装着した。
「はい」
「おぉ!」
返ってきた自分のスマホの姿に歓声を上げた。いつだったか、雑誌を見て欲しいと喚いていたスマホケースがついていたから。
こっちが本当のクリスマスプレゼントだったか。キスでもドッキリでもなく。
ならば、なおさら困った。俺は別に六夏に対してプレゼントとか用意してない。ここ数週間タイトスケジュールでそんな暇はなかった。どうしようか……仕方ないからここは腹を括って、俺の熱いキスと抱擁を与えてから夜の青姦へ移行
「だから声に出てるっつーの!!」
六夏のサプライズと鳩尾への一撃で天に昇る(召される)気分になる。一瞬イエス・キリストが見えた気がするけど、ある意味今までの人生で一番クリスマスを感じた年だった。

 

 

 

 イラスト:七賀