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執筆:八束さん

 

 

 

「こんな夢を見続けているのは欲求不満なせいなんだと思いました。だから抜いてから寝ようとしたんです。でも……どれだけやっても、ちっとも気持ちよくなれなかった。なのに夢に入った瞬間、身体が火照って、気持ちいいことしか考えられなくなる。まるで快楽に囚われた……浅ましいイキモノになってしまったみたいに。けれどひとたび夢から覚めると、まったく役立たずになってしまう。ワケが分かりませんでした。でも、夢で解消できているならそれでもいいか、と、そのときはまだ楽観的だったんです。でも丁度……一週間くらい前……から、だと思います。いよいよ夢が……俺を罰しに来たんです」
「罰する?」
「罰……だと思います。夢で快楽を散々貪った……

 ああ……何故だろう……
 これは夢……じゃないはずなのに……
 さらさらさら、と……砂が……

……落ちきらなくなったんです」
「落ちきらない?」
「砂が。すべて。落ちきった瞬間、訪れていた快楽が。ある日を境に。あともう少しで落ちそう……その寸前のところで、夢から弾き出されるようになってしまったんです。それ以来ずっと身体の中で熱が溜まりっぱなしで……。でも現実でもどうやっても、イくことができなくて……。苦しくて……たまらないんです。それから寝るのが怖くて怖くて……毎晩毎晩、拷問にあっているみたいなんです。砂が落ちきる寸前でくるりとひっくり返され続けて、いつになったら終わるのか分からないときもありました。そのうち耐えきれずにどうにかなってしまいそうで怖いんです。先生……こんな話、とても信じてもらえないのは分かっています。俺自身ですら信じられないくらいなんだから。でも……このままじゃ……自分が自分ではなくなりそうで……!」
「そうだね……確かにそんな話は聞いたことがないし、俄かには信じられないけど」
「先生……
「でも君の切実な思いは分かったよ」
 そう言って先生はおもむろに立ち上がり、キャビネットの方に向かった。
「ただ実際見てみないことにはね」
 キャビネットの扉がひらかれる。
 ああ……
 どうして今まで……気づかなかったんだろう……

 さらさらさら、と……
 砂の音が大きくなる。
 先生が取り出したのは……

「君の夢に出てきた砂時計はこんなだった?」

 先生が砂時計を目の前に持ってくる。
 砂の音が大きくなって、先生の声がかき消される。そして自分の声も吸い込まれる。何を言っても届かない。身体も夢の中のように動かせない。眼球だけが、必死に先生の動きを追おうとする。そして気づく、先生がしようとしていることを。
 やめて。
 先生、どうして、こんなこ……

 ゆっくりと……
 砂時計を持つ手が傾いていく。