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〔1〕

執筆:八束さん

 

 

 

少年を保護して一ヶ月。彼は順調な快復を見せている。
 いたるところにあった切り傷は目を凝らさないと分からない程度になったし、保護した当初は枯れ枝のようで今にもぽっきり折れてしまいそうだったのが、体重は5キロ増え、血色もよくなった。どこにいたっておかしくない、普通の少年……の、ように、見える。
「おかえり、ヒロト!」
 しかし困ったことがあって……
 梶谷の帰りを待ちわびていた、とばかりに抱きついてきた少年。ここまではまあいいとして……
 彼の手はするり、と梶谷の下半身に伸びたかと思うと、抵抗する隙を与えないスマートさで、もうジッパーを下ろしている。
「待ってたぁヒロト。なかなか帰ってこないから心配で心配で……もうおかしくなりそうだった」
「君が心配していたのは私じゃなくて私のこれだろ」
 あっという間にむき出しにされてしまったペニス。それを何のためらいもなく彼は口にくわえる。
「違うよぉ……
「そんな顔で言っても説得力ないんだけど」
 そう揶揄しても意に介する様子もなく、一心不乱にしゃぶり続けている。まったくどこでこんなことを覚えたんだ……と、思う一方、そう思うことがどれだけ滑稽なことかも一方で理解している。
 髪を梳くようにさわってやると、自信を得たようにさらに動きが大胆になる。

『何だかんだ言って気に入ってるんだろ、■■のこと……
 そう同僚に言われたことを不意に思い出した。
『くれぐれもハマんなよ』
 冗談じゃない……
 心中で反論しながら、でも、抗いがたくなっているのも事実だった。このままでは本当にハマってしまう。駄目だ。彼はいずれ、施設へと返さないといけないんだから。
 そろそろヤバいな、と白旗を上げるより先に彼が、入れていい? と言ってくれたおかげで、かろうじて面目を保つことができる。彼は、自分で準備したという後ろを、得意げに広げ、見せつけるようにしながらのしかかって来た。
 自分で最後まで沈めきると、はいったぁ、と嬉しそうに下腹部に手を添えながら、期待をこめた眼差しで見上げてくる。
 何をどう言ってやればいいのかは分かっている。肯定とあとほんのちょっと、快楽のスパイスになるような意地悪を言ってやればいい。本当にこれが好きだな、と頭を撫でて、もっと気持ちよくなりたい? そのためにはどうすればいい? と囁いてやればいい。
 分かっているのに、言葉にするのを躊躇ってしまう。身体を重ねれば重ねるほどぎこちなくなっていく自分とは対照的に、彼はどんどん奔放になっていく。丸呑みされそうな恐怖を追い払うように、押し倒した。よりいい場所に当たるようになったのか、たまらないという風に声を上げ、両手を伸ばし、しがみつき、キスをねだってくる。まるで恋人にするような振る舞いに、当初は感じなかった違和感がどんどん膨れあがっていく。それを抑え込むように激しいキスをすると、その激しさのぶんだけ求められている、と彼は幸せな勘違いをしてくれる。口の端からこぼれかかった唾液も、吐息も、全部、飲み込んでやる。違和感……と、いうより、これはむしろ……
「好き……
 キスとキスの合間。息をするための貴重な合間ですら、彼はそんな言葉を言うために使う。「好き……ヒロト……好き、好き、好き……
 好き……その意味を彼は本当に分かっているんだろうか。
「気持ちいいこと、が、だろ」と言ってやると、頬を膨らませて「違う、ヒロトが好き」と言う。「でも……気持ちいいことも好きだけど」

 ぐりぐりと奥を突いてやると、彼はすぐに射精した。あえて腹の上に精液を飛び散らせたままにさせ、息が少し落ち着いたのを見計らって抽送を再開する。
「やっ……ヒロ……っ、また、イっ……またイっちゃうっ……
 決して自分は『そういう』趣味はないはずなのに、きゅうきゅうと締めつけてくるナカを無理矢理押し広げるようにしていると、自分の中の嗜虐的な部分が頭をもたげてくるのを感じる。びくびくと全身を震わせ、彼はまた、射精する。そのたびに細い脚が、ヒロトの腰に巻きついてくる。出るものは薄くなって息も絶え絶えなのに、反して中心は萎える気配がない。


「ひうっ……やあっ……なんかへんっ……へんっ……へんなのっ……とまんなっ……さっきから、ずっと、で、てるのぉ……っ」
「出る? もう何も出てないけど」
 つっ、と、根元から先端にかけて人差し指でなぞってやると、身をよじって絶叫する。
「ひいっ……やっ、さわっちゃやあっ……イくの……イくのとまんないからぁああまたイくっ……イくっ」
 その様子に思わずくすりと笑みをこぼすと、それすら彼は、貪欲に性感に変えてしまう。
「とうとうメスイキも覚えちゃったんだ」
「めすいき……
「そう、射精しないでイっちゃうの。すごいね、あっという間にこんなことまで覚えて」
 ちょっと前までは後ろで感じるのも……いや、指を一本入れるのすらキツそうだったのに……それどころか……
「君は本当に……
 君は本当に……
 そのあと何を続けようとしていたのか、自分でも分からなくなってしまった。その迷いが伝わったのか彼がおずおずと、「へん……?」と呟いた。「こんなになっちゃうの、へん? ヒロト、きらいになっちゃった……?」
 そうだ、と言ったら……
 彼はどんな反応を示すのだろう。
 そう思わないこともなかったけれど、それは自分のやるべき仕事じゃない、と思い直す。そこまでの裁量は自分には与えられていない。

 

 

 

 

 

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