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2(七)

執筆:七賀

 

 

 

しかし行為は終わらない。逃げようとすれば複数で押さえつけられ、ただの穴と化したアナルを犯された。
「も、やっ……許して……!
感じ過ぎて辛い。中にどくどくと射精されるたび、腰が溶けてしまう気がする。泣き叫ぶ水門を、男達は放さなかった。
「すごいな、トロトロだ」
性器を擦り合わせ、男は満足気に呟く。気持ち良かっただろう? またここへおいで、と言う声が聞こえたけど、返事をする余裕もなく意識を失った。
目が覚めた時には部屋に誰もいなかった。小さな窓ガラスから僅かに陽光が漏れている。改めて部屋の中を見ると、ベッドなんてどこにもなかった。ものを全て撤去したような空き部屋。使われなくなって久しいように埃まみれだった。自分は何故かその中心に、全裸で居座っている。気味が悪くて急いで服を着、建物から飛び出した。
外観は昨日と同じ……しかし門に貼られた看板をよく見ると立ち入り禁止の文字があった。
昨日は、こんな看板あっただろうか。記憶を辿ってみても自信が無い。全く気付かずに立ち入ってしまったとしたら……恐ろしくて身震いした。
後から聞いた話、ここは既に廃墟と化してホテルなど経営してないという。
じゃあ何故自分が訪れた時は宿泊客が居たのか。朝にはもぬけの殻となっていたのか、今でも謎のままだ。
だから恐怖を抱きつつも、あれから廃墟に足を運んでしまった。誰に言ってもきっと信じてもらえない。でもセックス依存症の幻覚だ、と笑われたくなくて。しばらく廃墟の中を彷徨う生活が続いた。結局誰とも会うことはできなかったけど、廃墟の前を通り過ぎる人がこんなことを言っていた。
「最近この建物、夜になると人影が見えるんだって。怖いね~」
「あ、聞いた聞いた。男の人だってね。ほら、この前ここで車に撥ねられて亡くなった男の人いたじゃん? その人の幽霊じゃないの?
……
幽霊。それを聞いて密かに納得した。
自分の妄想じゃない。あれは言葉じゃ説明できない体験だった。けど気持ちよかった、という快感だけは身体にしっかり刻み込まれている。
今日も廃墟の窓から外を眺め、夜がくるのを待った。
ぴちゃん、ぴちゃん、と一定のリズムで水の音がする。
雨漏りしているようだ。音を拾いながら、もうひとつ別の音が近付いてくることに気付いた。
闇に包まれた部屋の中で灯りをつける。湿ったベッドに腰を下ろした。
やがて部屋のドアが開く。顔を覗かせたのはまだ若い青年で、怯えながらこちらを窺っている。そして尋ねた。
「あ……あの噂、本当なんですね」
「どの噂ですか?
「ハッテン場だって。幽霊が出る、と聞いたから心配したけど、人がいて安心しました」
青年は笑ってドアを閉める。水門も笑って手招きした。
「お相手が幽霊だったとしてもさ。気持ちよければそれで良いんじゃない?
自ら服を脱ぎ、青年の服も脱がせにかかる。猛った中心……久しぶりに感じる熱に触れたとき、生きているような錯覚がした。
「え、でも、幽霊はさすがに怖いっていうか。信じてませんけどね」
「ふうん……
ベッドに押し倒す。飢えた獣のように無我夢中でむしゃぶりついた。
これだからセックス依存は怖い。死んでも快楽から逃げられないなんて。
「朝まで気持ちいいことしよ?
半透明になった自分の指先を見て、水門はそっと微笑んだ。