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1(七)

執筆:七賀

 

 

 

自分がセックス依存だと知ったのは、ネットの簡易な診断テストの結果からだった。手軽で流行りに便乗したような宣伝文句。こんなもの素人でも作成できるから真に受けてはいけない。そう鼻で笑ったものの、中々診断結果の点数を忘れられずにいた。とても悪趣味なデザインだったから余計癇に障ったのだ。赤い太字で注意マークがでかでかと表示されていて、学生に戻って赤点を取ったような気分だった。
水門(みと)は煙草を灰皿に押しつけた。彼の生活は綺麗に分割されている。昼は仕事、夜は決まってゲイの知り合いが集まる繁華街へ通う。目的は単純、セックスする為だ。四秒目が合ったら自然に近付き、言葉も交わさずに身体を交える。腹立つ上司や日頃の鬱憤は全て射精することで吐き出していた。
お金を払って抱かれるよりは、抱かれることでお金を貰った方がいい。出会い系サイトを使い、一夜限りの快楽に身を落とす。そんな日々がしばらく続いた。
「あれ、またイッた? すごいね君、中イキ楽勝じゃん」
妖しい紫色に包まれたホテルの一室で、今日も初対面の男に抱かれた。自分のアナルは男のペニスを逃すまいと締め上げている。
「どうしたらこんなエッチな身体になれるのかな? ねぇ、今まで何人の男に抱かれてきたの?
「お……覚えてな……っ」
うつ伏せにされ、腰だけ高く引き寄せられる。男は尻の割れ目を広げ、恥ずかしいところまる見えだよ、と囁いた。とても陳腐な言葉責めをする男だった。AVの大根役者が台詞を棒読みしてるようなガッカリ感。あれは黙ってる方がよっぽどマシだ、と観る度に思う。頼むから行為に集中させてくれ。
けど、欲望に満ちている時は下手な煽りでも興奮した。ただ、できれば口よりも腰を動かしてほしいので、無我夢中で自分のペニスを扱いた。
今はこれで満足するしかない。本当にセックス依存だとしたら、生でできただけラッキーだと思わなくては。
無理やり納得し、精液を巻き散らかした。シーツの上に点々とできる染み。
別れ際に男は手を叩いた。
「君、まだ満足してないでしょ。ここの四軒隣に小さなホテルがあるんだけど、そこは泊まりにきてる客と毎晩ヤれるらしいよ。どの部屋もアポなしで突撃できるって、知り合いから聞いたな」
んな馬鹿な……にわかに信じ難い話だ。
けど身体はまだ疼いている。夜はこれからだし、家に帰る前にもう一発抜きたい。軽い気持ちで指定された建物へ向かった。
場所はすぐに分かった。
真っ黒な道路を渡って、白線を踏む。その際、一瞬だが後ろに強烈な光が照らされた。
向かいに渡りきり、建物を見上げる。三階立てのコンクリートビルで、看板は所々剥がれていた。これではホテル名が分からない。何だか気味が悪いが、ただの雑居ビルをホテルにしただけかもしれないが、ひとまず中へ入った。一階は閑散として、受付らしき窓口は薄汚れたシャッターが下ろされている。幸いエレベーターはすぐ見つかったけど、息が詰まりそうなほど小さかった。二階へ上がると一直線に伸びる廊下、その右端にワインレッドの扉が十以上並んでいた。
ここは本当にハッテン場なのだろうか。不安になってうろうろしていると、一番手前のドアが開いた。長身の若者だった。
「こんばんは」
「こ……こんばんは」
挨拶されたら、挨拶するしかない。短く会釈すると、彼は少し首を傾げて手招きした。
「上がっていきます?
普通なら有り得ない提案だ。もし自分が普通の人間だったのなら、鳥肌立ってすぐに逃げ出しただろう。しかし下心を持ってここへ来ている以上、それは魅惑的なプロポーズだ。
引かれるままに彼の部屋へ入る。ホテルらしくバスルームを抜けると突き当たりに大きなベッドが二台並んでいた。
「嬉しいな。こんな綺麗な人が来てくれるなんて」
男はそう言うと自分の服を脱がせにかかった。
「待って、まだシャワー浴びてないから」
「大丈夫。そんなのいらないよ」
容易く服を剥ぎ取られ、まだ硬いアナルに触られる。ヤリたくて仕方ないようだ。自分と同じく、彼も依存症だったら……。訊くことはできないけど、そうだったら嬉しい。勝手に同類だと解釈して脚を開いた。
「ん、んうっ」
優しい顔と声とは裏腹に、男の手つきは強引なところがあった。ポンプの形状をした妙な道具でアナルにローションを注がれる。感覚的には浣腸をされてるようだった。
ぽっかり空いた穴の中をいっぱいにされ、最後に太い肉棒で貫かれる。
気持ちいいけど、何故かぞっとするほど男のペニスは冷たかった。
「はぁ、熱い……気持ちいいよ、君のお尻の中。最高……っ」
優しい言葉に乱暴な手つき。そのギャップがたまらなかった。さっきホテルで寝た男よりもずっと上手だった為、思わず火がつく。無我夢中で脚を開いた。
最初は終わって欲しくないと思った……上等なセックスは、どんどん過激になっていった。気付いたら新しい男が来て、入れ替わりで押し倒された。さすがに出せるものも無くなり、快感ではなく疲労を覚えた。


辛い。もう解放してほしい。