一季は深呼吸し、とうとう着ていたシャツも脱ぎ捨てた。これで完全に全裸。人間にとっての最終形態だ。またの名を変態と言う。
( でもここまでやればさすがの叔父さんも……!! )
「一季、風呂でも入るの? まだお湯沸かしてないよ」
駄目だった。この姿にもまったく動じない叔父。
強硬手段に出ないと効果ないのか……!!
どこまでもすっとぼけた彼の反応には殺意さえ覚えるけど、そもそもの始まりは自分の狂気にも似た好意から。
それに彼を無理やり巻き込んでいるだけで、言うなれば彼は被害者だ。
そう分かっていても、止められない。
「叔父さん、同性愛者でしょう? 俺の裸見ても何も感じない?」
「ん。成長した、とは思う。一季は身長伸びるのが遅かったからねぇ」
我慢の限界。一季の中の火山は大噴火した。
「ちがう!! そうじゃない、俺の裸を見ても興奮しないの!?
……ってことを言ってるんです!!」
全裸で怒り散らしている今の姿は滑稽にもほどがある。二十歳の誕生日にこんなアホなことをしている男はまずいないだろう。しかも、自分より一回り歳上の男を押し倒して。
あまりに酷い光景に笑いが零れる。その間も、彼は穏やかに笑っていた。
胸の中がぐちゃぐちゃに掻き回される。このままだとまた余計なことを口走りそうなので、彼の性器をむしゃぶることで口を塞いだ。
片手で彼の腰に抱きつき、もう片手は尻に回す。割れ目の奥、隠れた禁断の入口に。
「んっ!」
実は、今日叔父と会う前にも弄っていた。
いつか彼と繋がれるように、男同士のセックスを知った時からひとりでここを開発していた。
ローションを鞄から取り出し、後ろをほぐしながらフェラに集中する。
「叔父さん……叔父さんの、欲しい。ここに入れて……?」
彼の股間に顔を沈めたまま、腰を高く上げた。もうかき消すことはできないセックスの匂い。
叔父さんが入れてくれないなら、強引に勃たせて中にくわえてやる。……というくらい危険思考に走っていた。そのまま彼の性器に触れようと手を伸ばす。が、
「一季。逆レイプって知ってる?」
「えっ」
思いがけない叔父の言葉に、伸ばしかけていた手は石のように固まる。
「例え挿入されるのは一季の方だとしても、嫌がってる相手に強く求めれば強姦と同じ。女性が男性にセックスを強要するのも、一種の逆レイプだね。一季は犯罪に手を染めるような子だったっけ?」
“犯罪”。
そのワードはちょっとヘヴィだ。思考を溶かしていた熱は一気に冷め、逆に寒気立つ。
一季は慌てて晃成の上から身を引いた。
「ご、ごめんなさい。俺、そんなつもりじゃなくて……っ」
あまりの焦れったさに襲いたくなっていたけど、彼が本気で嫌がるようなことはしたくない。それで嫌われたら身も蓋もないし、彼にはいつも笑っていてほしいんだ。
なのにどうしよう。晃成叔父さんに嫌われたら────。
不安な気持ちが膨れ上がってコントロールがきかない。途端に怖くなった。今の状況から逃げ出したくなったけど、上体を起こした叔父さんに優しく抱き締められて息を飲む。
「大丈夫、分かってるよ。一季は優しい子だから人が本当に嫌がるようなことはしないし、……したくてもできないだろうね」
彼はそう言って笑うと、俺の額に短くキスをした。
「叔父さん、怒ってないんですか?」
「怒る? どうして?」
「だって……俺が自分勝手に暴走してるから」
弱々しく呟く。叔父さんは何も言わずに、床に落ちている俺のシャツを拾って肩に掛けてくれた。
「風邪ひくといけないからね。あったかくしとこう」
にこっと笑って頭を撫でる。
あまりにもブレない彼の態度。……俺はまだ、当分適いそうにない。
「……っ」
今日はもう、頑張る元気もない。
何だか無駄に疲れた。……妙な誕生日になってしまった。