3話

 

 

生徒会の裏の活動。
それは学園内のゲイカップルを増殖させる計画に基づいて行われている。
同性愛者も気兼ねなく恋愛ができて、のびのびと生活できる。そんな理想を求めてウチの会長は役員をこき使っている。
も男同士が普通に手を繋いだりする環境ができたらすごいと思うけど、それより先のことはちょっと想像できない。自由度が増したぶん、問題事も増えるような気がした。

「籠原先輩、相談にのってくれてありがとうございました! またここに来てもいいですか?
「う、うん! もちろん、いつでも来てね」
今日も無事、迷える少年を送り出した。彼、間戸君の相談内容は好きな男子と仲良くなれる方法を教えてほしい、というもの。
「宿題を見せてやれば向こうから近付いてくるよ」とアドバイスすると、彼は腑に落ちた様子で帰っていった。ちょっとテキトーだったけど、本人が満足してるから良しとしよう。

「やっほーい千草! お留守番あんがとね。おかげで無事に新発売のプリン買ってこれたよ!


「ポスター貼りに行っただけにしては遅いと思ったら……お前がいない間に一年の子が相談に来て焦ったんだぞ」

意気揚々と部屋に入ってきたのは、二年の五十嵐晶。クラスは違うものの、同じ生徒会メンバーだ。
「ここで一人とか拷問に近い。俺が相談受けんの苦手だって知ってんだろ! 極力寄り道しないで、早く戻って来てくれよ!
「はいはい、よく分かりましたよ。千草ちゃんはシャイですもんねー。……それよりお前の分もプリン買ってきたから食べようぜ
こっちの心情などおかまいなしに、晶は袋からプリンを取り出して食べ始めた。こうなるともう何を言っても無駄だから、お礼だけ言って残りのプリンを貰う。
「わ、これ予想以上に美味い!! ……でっ、今日来た子はどんな相談内容だったん?
「好きな男子と仲良くなるにはどうしたらいいか? ……フワフワした相談で良かったよ。もっとディープなのきたらどうしようかと思った」
「あぁ、セックスの悩みとか? 千草にはキツいよな、だってまだ処女だし」
晶は可笑しそうに笑っている。思わず睨むと、彼はゴメンゴメンと手を合わせた。多分、心から悪いとは思ってない。
晶はやはり同性愛者で、生徒会(というより会長個人)のやり方には賛成派だ。同性愛者が日陰でコソコソと生きなきゃいけない世界はおかしいと思っている。

でも、俺は……どうだろう。

間違いなく自分も同性愛者だ。コソコソと生きたいなんて絶対に思わないけど、自分達の為に全校生徒を巻き込むことが許されるんだろうか。
それだけはどうしても分からず、胸に引っかかる。
「プリンごちそうさま。晶、俺もう帰るね。会長達も今日は来なそうだし」
「おー、そーね。俺はもうちょい残るよ。気をつけてな」
晶は余った生徒会勧誘ポスターをまとめながら手を振った。仕事を任せてしまって申し訳ないけど、今日はもう疲れてしまった。鞄をとって、薄暗い廊下へ出る。
歩いてる最中、自分や晶が貼ったポスターが目に入った。学園内の恋愛のお悩み相談……こんなものを信じてやってくる子がいるんだから、本当に面白い。
生徒会に入らなければこんな心労は無縁だった。今となっては全て後の祭りだけど。

「お。籠原、おつかれ」

とぼとぼと虚しく歩いていると、明るい声で名前を呼ばれた。慌てて顔を上げ、前方の人影を確認する。

「笠置先生。おつかれさまです」
「生徒会か?
「は、はい」

現れたのは千草の担任、笠置だ。まだ若い男性教諭で、イケメンのためか学園内でもとびきり人気がある。
しかし、千草は彼と目を合わせることができない。あきらかに挙動不審になり、せっかく上げた顔を逸らしてしまう。そんな彼の頭を、笠置は笑ってぐしゃぐしゃと撫で回した。
「籠原は本当に仕事熱心だな。感心感心!
……!!
高校生にもなって頭を撫でられても、普通は嬉しくない。むしろ馬鹿にしてるのかと怒っても良さそうなもの。
それでも、千草は顔を真っ赤にして俯くことしかできない。
「それじゃ、気をつけて帰れよ。また明日!
「はっ、……はい」
遠のく足音。それが完全に聞こえなくなり、千草はようやく顔を上げることができた。

「はぁ……!

大袈裟なため息をつき、前髪を乱暴にかき上げる。
(
笠置先生、今日もかっこよかった…… )
まだ火照った頬に触れ、彼の笑顔を思い出す。
これは生徒会の人間にも隠しておきたい、淡い恋心。


千草は、担任の笠置に恋をしていた。