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三話

 

 

「晃成叔父さん……
ケーキが乗った皿を受け取り、一季はわずかに微笑んだ。
自分に対して関心が無いのかと思いきや、今のように嬉しいことを言ってくれる時もあるから困る。いっそぞんざいにあしらって、嫌そうな顔をしてくれたら淡い希望を持つこともないのに。

(
やっぱり、これ以上は待てない )

二十歳になるまでは、とずっと我慢してきた。叔父にも立場があるから、未成年の甥とアレコレ噂が立てば困ってしまう。 
でも今日という今日こそ、はっきりさせたい。彼への愛を証明するか、もしくは完全にこの想いを断ち切るか。
「叔父さん」
一季は皿をテーブルに置く。そして間髪空けずに晃成を絨毯の上に押し倒した。


「ごめんなさい。俺、やっぱり我慢できない……嫌なら抵抗してください」

彼の上にまたがり、強引に唇を塞いだ。
衝撃的だ。もうこの時点で記念日確定だし、下手したら死んでもいい。
人生初めてのキス。初めて、好きな人とキスをしたんだ。
「ん……っ」
少し唇がカサカサしてるのは想定の範囲内だ。冬で乾燥してるし、明日コンビニでリップクリームを買ってきてあげよう、と頭の隅で呑気に考える。
ただひとつ、気掛かりなことは────肝心の叔父が微動だにしないことだ。

……叔父さん? 抵抗しないんですか?

さすがに全く反応がないと不安になる。少し距離をとって見下ろすと、彼は今にも眠りそうな顔でリラックスしていた。
キス、した後の顔とは思えない。まるでマッサージをして、いいツボに当たってますみたいな緩い顔だ。
「ん、もういいの? もっとしてもいいけど……誕生日だし」
叔父は大の字になり、両腕を放り出す。これはまずい。
今絶対に、俺と彼の間では著しい温度差が生じている。俺は肉体関係(?)を匂わせたキスをしてるのに、彼はまるで子どもがじゃれてるのを喜んでるような余裕っぷりを見せている。

「叔父さん! はぐらかさず、今だけは真面目に俺の気持ちに応えてください!! 俺はもう子どもじゃないんだから!

いやいや、わかってる。この超級ド天然の叔父に口で言って伝わるとは思わない。だから強行突破で、自分のズボンのベルトを外し、下を全部脱ぎ捨てた。
恥ずかしくて死にそう。でもそれ以上に彼と繋がりたい気持ちと、想いが伝わらない苛立ちに頭が沸騰している。

「貴方が欲しいんです。誰にも渡したくない、俺だけを見ていて欲しい。……だから、嫌なら本気で断ってください」

再びキスをして、何もまとってない下半身を彼に擦り付けた。ここまですれば超絶鈍感な叔父も分かるだろう。
自分は本当に、彼を性の対象として好きなのだと。……って、それはちょっと良くない例えだった。別にヤることが最終目的じゃないよ。そこまで性欲オバケじゃない。
けど、彼を振り向かせるためなら性欲オバケにでもなる。

一季は抵抗しない叔父のシャツに手をかけ、露になった肌に愛撫していく。熱の高まりを感じている…………最中も、思うのはやはりあの事。

(
どうして何も言わないんだ? )

できれば抵抗してほしくないけど、ここまで無反応だと怖くて仕方ない。どうしてだろう。そういえば叔父の股間も特に反応してないけど……もしかして自分に色気がないから勃つものも勃たない、ということだろうか。
そんな屈辱的なことはない。もしそうなら、意地でもその気にさせてやる。

叔父のチャックを開け、中から性器を取り出す。柔らかくても、それは思った以上に大きかった。自分のものと比べると少し赤面してしまうほど。
けど気を取り直し、それを口に含む。初めての経験だけど、必死にしゃぶった。
これで気持ちよくなってくれればいい。そう願って恐る恐る叔父を見る。
すると、あろうことか叔父は瞼を閉じて眠りそうになっていた。


「晃成叔父さん!!


多分、人生の中で一、二を争うぐらいの大声を出した。案の定、叔父は驚いて飛び起きる。

「な、何? 地震!?
「えぇ、俺の中では大震災級です! 何考えてんです!? フェラしてる最中に寝るとかナメてんですか!?

息が切れるのもかまわずに叫ぶと、彼はヘラヘラと笑って身を起こした。

「あー、フェラのつもりだったんだ。いつもみたいに甘えてるだけだと思ったよ。……特に気持ちいいってわけじゃなかったし」
「え!

気持ちよくなかった。そりゃ初めてだし、勝手は分からなかったけど、まさかそんなハッキリ言われるとは。あと甘えでフェラする奴がこの世にいるか!

 

とにかくかなりショックだったけど、ここで折れるわけにはいかない。叔父には絶対に気持ちよくなってもらって、あわよくば今夜必ずエッチに持ち込んで既成事実を作るんだ……!!