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光のプレゼント⑶

 

 

 

広間に出て、晃久は微笑む。近くのウェイターからグラスを二つ受け取り、一つを渡してくれた。
「腹減ってるだろ? ビュッフェもあるし、食べてから甲板に行こう」
「うん」
周りは家族連れやカップル、それから穏やかそうな老夫婦がたくさんいた。

家にいたら、こんなにクリスマスが大事な日とは思えなかったな。……いや、晃久に連れてきてもらったから……特別なものに感じる。

「晃久。ありがとう」

メニューを見ながら囁くと、彼は嬉しそうに笑った。

「晃久の方が仕事大変で疲れてんのに、こんなことまで考えてくれてさ。……俺、お前に色々してもらってばかりで何も返せてない。何もできなくて、申し訳なくなる」
「それは違うよ。お前はもう充分役目を果たしてる。って、それは言い方が悪いか」

晃久は近くのテーブルに座る。運ばれてきた食事には手をつけず、真っ直ぐこちらを見てきた。
「俺はお前がいるから、嫌な仕事も頑張れる。お前が傍にいなかったら、ここまで順調に来れてないよ……
たとえ過ごした日々は短くても、ひとりだった時とは違う。彼はそう話した。

「だから心配すんな。何かあっても、俺がお前を養うから」
「いや! それはやっぱり良くない。俺も最近ずっと考えてたんだけど、そろそろ真面目に就職しようかなって思ってんだ。
仕方なく、って気持ちじゃないよ。収入なんかお前に比べたら微々たるもんだろうけど、少しでも足しにして、二人の為に貯めていきたい。あと、お前の力になりたいんだ」

一応声は落としながら、仕事中も考えていたことを彼に伝えた。
この記念すべきひと時に仕事の話なんて以ての外だけど、なるべく早くに話したかった。

「晃久も、俺がいつまでもフラフラしてるから心配だったろ?
「え? それは別に……ていうかそれ、何かフリーターの息子を心配する親みたいだな」
「あはは、つまりそれ」

笑って返すと、彼も可笑しそうに吹き出した。

「俺は応援してるから。就職したいなら、全力で力になる。でも、何の仕事をするか考えるのは大事なことだよな。……何か、お前が本当にしたいことを見つけられたらいいな」
「うん。今度こそ真面目に探してみるよ」
「頑張れ。じゃあ朔の就労意欲……じゃない、決意表明に乾杯」

彼は俺の、テーブルに置いてあるグラスを軽く鳴らし、シャンパンを飲んだ。

「どうせなら二人で持ち上げてやろうよ……
「ごめん、喉乾いちゃって」

相変わらずのペースに苦笑する。
このマイペースなところがお坊ちゃまたる所以だけど、それだけじゃない。

やっぱり、晃久は優しいな。
俺が本当にしたいことを応援してくれる。それだけで、俺もやる気が出てくる。
俺自身は彼に何も返せてないけど、それもこれから見つけよう。まずは傍で支えて、同じように応援するところからだ。

「朔。メリークリスマス」
「メリークリスマス!

楽しい音楽、楽しい食事。
大好きな人と過ごせる、最高の時間。
食事を終えてから、二人で甲板へ出ることにした。中が暖かかったせいか、外の寒さに驚いた。潮風が当たる度にブルっと震えてしまう。

「はぁ~、やっぱ寒いなぁ」

さすがの晃久も腕を組んで、白い息を長く吐く。けど、遠くに見える何色もの光は寒さすら忘れさせた。
「見ろよ、晃久。あっちの景色、すごい綺麗」
「ん? あぁ、ほんと」
さっきまで自分達がいたはずの場所。でも地上から見る光と、こうして海上から見る光はまったくの別物だった。
幻想的、と言う意外に上手い言葉が見つからない。暗い世界と明るい世界を切り離して眺めてるみたいだ。あの岸に着けば、眩い世界が待ってくれてるみたい。

帰りたいのに、帰りたくない。
もう、この光景が……

「最高。最高のプレゼントだよ、晃久」
「おぉ。お気に召してもらえて光栄だよ。……俺はお前が今年最高のプレゼントだけど」
「もう……

いつもの甘い声に全身が痒くなるけど、素直に喜ぶことにした。なんせ一年に一回のクリスマスだから。
冷たい手を握り合い、互いの体温を分け合う。

「朔、来年のクリスマスも楽しみにしてろよ」
「いーや、来年こそは俺が企画するよ。だから覚悟しといて」

二人で囁いて、遥か遠くの夜景を眺めた。

この日は一生忘れない。

そして一年後の今日は、変わらず二人笑顔で過ごせるように。あの優しい光にそっと願った。